×

社説・コラム

天風録 「福島からの風」

 「福島からの風」が届いた。そんな題名の川柳句集。福島県のへその位置にある本宮市の元県職員、伊東功さんが自費出版で分けていると知り、送ってもらった▲おととし出た第2句集には、東京五輪にちなんだ句が目に付く。<五輪より一輪の花被災地へ>。花の舞台に寄せる心の、せめて5分の1でも―との願いが切ない。読んだ何人もが「気持ちを代弁してくれた。全国に届けて」と勧めてくれたという▲五輪の句は、ことしの第3句集にも入っている。<あと四年故郷追われもう五年>。残り年数のカウントダウンに入った世の中との落差。福島第1原発から約60キロ離れた本宮市は、避難区域の高校生たちも受け入れてきた。その胸中に寄り添う▲粛々と、時計の針を元に戻す原発の再稼働にも、「風」は目を向ける。<川内をさせてはならぬセンダイに>。フクシマを経験した以上、電力会社や国にだまされたとは二度と言えない。そうした自戒とも読み取れる▲一言居士のようだが、句に添えた解題に奥さんの影がちらほら。以前と似た作品には「アンタ、またズルやったわね」と厳しい。手加減なしの批評にさらされ、耐えた「風」は、かみしめがいがある。

(2016年4月10日朝刊掲載)

年別アーカイブ