×

社説・コラム

社説 広島外相会合 被爆地開催どうつなぐ

 きょうとあすの2日間、広島市で初となる先進7カ国(G7)の外相会合が開かれる。来月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に向けた一連の閣僚級会合のスタートとなる。テロ対策や難民問題、北朝鮮の核開発など混迷を極める時代に、被爆地での開催意義は大きい。

 会合では「広島宣言」を出し、核軍縮・不拡散への決意を示す。その概要は既に固まっており、中国を含めすべての核保有国に核戦力の透明化を求めるとともに、世界の指導者や若者に被爆地訪問を促すという。

 被爆の実相に触れることは、各国の外交をあずかる者にとっては貴重な経験となるに違いない。今回出席するドイツのシュタインマイヤー外相は本紙の書面インタビューで、その意味合いを認めている。

 2年前の軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)外相会合を振り返り、原爆資料館の見学や被爆者との対話に「深く心を揺さぶられた」とする。「広島は『核兵器なき世界』という目標に向け、力強く取り組むよう私たちを戒めている」と訴える。

 こうした共感の輪に、オバマ米大統領もぜひ加わってもらいたい。ほかならぬ「核兵器なき世界」の提唱者であり、被爆地に思いを寄せる発言もしてきた。原爆投下の正当化論が幅を利かす米国内で反発が出るのも覚悟の上で、現職国務長官としては初めてケリー長官を広島に派遣した。その決断を、素直に評価したい。

 外相会合の議題は核問題にとどまらない。テロ対策をはじめとする幅広いテーマで共通認識を示す共同声明と、南シナ海で軍事拠点化を進める中国を念頭に置いた海洋安全保障についても宣言を出す方針という。

 過激派組織「イスラム国」(IS)が欧州などで繰り返すテロはもはや対岸の火事ではない。安全保障関連法の施行に伴い、米国と行動を共にする日本も標的となりかねない。訪日外国人が増える2020年東京五輪も見据え、当事者意識を持って対策を急ぐ必要がある。

 一方、海洋安保の宣言は強引な現状変更に「深刻な懸念」を表明するものの、中国の名指しは避けるとみられる。欧州諸国と日米との間には、温度差があるためだ。とはいえ、アジア唯一のサミット参加国である日本が地域の安定化に果たすべき役割は大きい。中国に歯止めをかけるためにも、G7の固い結束を導きたい。

 とりわけ、広島市で外相会合が開かれる意義は大きい。かつてない厳戒態勢での警備に戸惑いも拭えない半面、JR駅の案内所など各所で押し寄せる外国人客をもてなす風景は「国際平和文化都市」に暮らす者として誇らしさを覚える。

 本紙の書面インタビューに応じた外相たちは、次代を担う若者に大きな期待感も寄せる。

 欧州連合の外交安全保障上級代表は「今度は若者たちが自らのレガシー(遺産)を残す番だ」と訴え、カナダの外相は「自らの地域社会で平和に向けて貢献することが、他の場所での平和と安全の構築にもなる」と呼び掛ける。

 外相会合まで呼び寄せた被爆地の「磁力」を、平和構築にどうつないでいけるか。ここ広島に住む一員として、あらためて考える一歩にしたい。

(2016年4月10日朝刊掲載)

年別アーカイブ