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社説・コラム

核軍縮には大きな一歩 広島外相会合

■編集局長・江種則貴

 広島市の原爆慰霊碑は「過ちは繰(くり)返しませぬから」と刻む。きのうケリー米国務長官は、何を思って碑文に向き合っただろう。

 原爆を投下した米国の現職国務長官が、爆心直下に広がる平和記念公園の地を踏む。被爆地で開かれた外相会合が、この71年間見ることのできなかった歴史的な瞬間をもたらした。

 原爆資料館も見学したケリー氏は記者会見で「胸をえぐられるような厳しい(展示)内容だった」と話した。正直な感想であろう。

 英国やフランスの外相も心揺さぶられたに違いない。資料館での記帳からは、それぞれ現職閣僚の立場からの制約も垣間見えた。ただそれでも、人道にもとる核兵器を保有し続けてきた意味を被爆地で見つめ直したと信じたい。

 そこがまさに今回の被爆地開催の意義だった。

 採択された広島宣言に「原子爆弾投下による極めて甚大な壊滅と非人間的な苦難という結末…」とある。「非人道」の表現こそ見当たらないものの、核兵器保有国も合意したことを考えれば、この「非人間的」の言葉は重い。

 議長として会合をリードした岸田文雄外相は、核兵器を持つ国と持たない国の「橋渡し役」を自任してきた。その強い自覚がもたらした着地点とも言えよう。

 ただ被爆地として、もうひと踏ん張りを願う。最終ゴールの核兵器廃絶はまだ見えてこないからだ。

 広島宣言にしても全体では不満が残る。「核兵器のない世界に向けた環境を醸成する」とのくだりは、日米両政府が重視する「段階的で現実的な核軍縮アプローチ」の言い換えにほかならない。「核兵器の少ない世界」の延長線上に廃絶があるとは考えにくいのだ。

 オバマ米大統領の被爆地訪問に期待は膨らむ。確かに発信力にたけたリーダーであり、実現すれば大きな一歩となろう。しかし、人類の命運がかかる核兵器廃絶には核軍縮とは違うアプローチが欠かせない。

 核兵器禁止条約や北東アジア非核地帯条約、さらに「核抜き日米安保」などを絵空事だと決め付けないでほしい。被爆国が言葉を尽くして説得すれば、核保有国も耳を傾けて一緒に行動してくれる。それも今回の成果の一つであろう。

 核兵器が存在する限り、再び使われる懸念は消えない。惨禍を二度と繰り返さないための全人類の責務とは何か。碑文の決意を、あらためてかみしめたい。

(2016年4月12日朝刊掲載)

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