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核なき世界へ機運醸成 広島外相会合 保有国への配慮も 被爆者懇談 実現せず

 政府が主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)成功に向け重視していた被爆地広島での外相会合は11日、幕を閉じた。原爆を投下した米国のケリー国務長官ら核保有国の現職外相たちを平和記念公園(広島市中区)に招き入れた意義は大きい。ただ、かつてない警戒ぶりに保有国への配慮もみてとれた。会合の成果である核軍縮・不拡散に関する特別文書、広島宣言も同様だ。被爆の実態を基に核兵器廃絶を訴えるヒロシマの「常識」が通じない、国際社会の厳しい現実を映し出した。(田中美千子)

 全ての討議を終えた後の記者会見。岸田氏は原爆資料館(中区)などで被爆の実態に触れた外相らの様子を踏まえて「強いインパクトを与えられた」と強調。こうも言った。「もう一度、核兵器なき世界への機運を盛り上げられる歴史的な一歩になった」

 出席外相の公園訪問はハイライトの一つになった。米国のみならず、英国のハモンド氏、フランスのエロー氏も現職外相として初めて足を踏み入れた。「岸田氏でないと実現しなかった」。ある外務省幹部は言う。「官僚にはない発想。リスクが大きいから」

異例の厳戒態勢

 そのリスクを排除する動きは次々と起きた。開催目前の9日朝、原爆資料館の本館と東館をつなぐガラス張りの渡り廊下に特殊なシートが張られた。「外務省の判断」(市関係者)で、外相の移動時の様子を見えにくくするためだ。

 11日の館内見学時は報道機関もシャットアウトされた。外務省から提供された写真は芳名録への記帳場面だけ。被爆資料を見学している場面は一切なかった。

 いずれも米側などの強い意向があったという。戦後70年が過ぎた今なお、原爆投下が戦争終結を早めたとの考え方が支持されているからだ。「厳島神社に行くのとは訳が違う。政治マターだから」「調整を重ねた結果だ。大統領選中に弱みはつくれないだろう」…。複数の外務省幹部が明かす。被爆者との懇談も実現しなかった。

消えた非人道性

 核軍縮に後ろ向きな保有国のかたくなさは、広島宣言にも表れた。日本政府が訴え続けてきた「核兵器の非人道性」の文言は宣言から消え、「原爆投下による非人間的な苦難」の表現に。「非人道性」を理由に核兵器の法的禁止を求める国々の活発な動きを警戒し、このキーワードを嫌う保有国に配慮したためだ。

 外務省幹部は「従来のフレーズより(悲惨さは)むしろ強まった」としつつ、こうも明かす。「非人道性という言葉に手あかが付いている、と嫌う国があるのも確かだ」。保有国が神経をとがらせている表れだ。

 この日の岸田氏の記者会見。日本政府が両者の溝を埋める立場を担うとしつつ、保有国が唱え続ける「(核軍縮の)現実的、実践的な取り組みを着実に進める重要性」に同調した。

 被爆地に寄り添っているか―。日本が政治指導者の被爆地訪問を国際社会に呼び掛ける限り、その姿勢が問われ続ける。

(2016年4月12日朝刊掲載)

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