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被爆者の声は響いたのか 証言の場は空席 「前進」「歯がゆい」交錯 広島外相会合

 核兵器保有国の米英仏を含む参加7カ国と欧州連合(EU)の外交責任者は、被爆者の証言を直接聞くことなく、広島を後にした。核兵器廃絶への具体的な成果が見えない歯がゆさと、保有国の外相の被爆地訪問を前進と捉える見方が、被爆者の間に交錯した。

 期間中、各国外相の日程に被爆者との面談はセットされなかった。世界的に注目される機会に核兵器廃絶の訴えを発信しようと、広島市は、取材拠点のメディアセンターとなった広島国際会議場(中区)に被爆者や被爆体験伝承者の証言の場を設けた。国内外の報道機関を対象とし、英語の通訳も付けた。しかし、空席が目立った。

 11日は、旧制中2年の時、爆心地から北東約2・5キロで被爆した山本定男さん(84)=東区=が証言した。しかし、耳を傾けたのは国内の報道機関の9人だけだった。山本さんは「被爆の実態を世界に知ってもらう絶好のチャンスだったのに。影響力のある海外メディアにも来てほしかった」と残念がった。

 市が養成した伝承者の一人で、母の体験を話した南区の山岡美知子さん(65)は「被害ばかり強調する内容では、海外で関心は高まらないのかもしれない」と落胆した。

 広島宣言には世界の指導者に広島、長崎の訪問を求める内容が盛り込まれた。だが核兵器の「非人道性」を明確に訴える言葉はなく、廃絶への道筋もあいまいだった。

 広島県被団協の坪井直理事長(90)は「核兵器をゼロに近づける一歩にしてほしい」と外相会合の意義を強調。オバマ米大統領の広島訪問に期待を示した。一方、もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(71)は「宣言には具体論がなかった。被爆地の人々の強い願いに本当に寄り添っているのか疑問が残る」と語気を強めた。(永山啓一、小林可奈)

(2016年4月12日朝刊掲載)

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