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広島外相会合・識者の見方

枠組みの限界露呈

広島市立大広島平和研究所 水本和実副所長

 広島宣言は、随所に被爆地への配慮が見られる点は評価できる。一方で「核兵器のない世界」を実現するのはあくまで漸進的な削減だとの「現実論」を強調した。先進7カ国(G7)という枠組みの限界が見える「苦肉の宣言」と言える。

 宣言は、国際社会に広がりつつある「非人道性」という言葉を避け、核兵器そのものの普遍的な評価には踏み込まなかった。

 また、核兵器廃絶の手法についても、現行の核拡散防止条約(NPT)体制の意義を訴え、「現実的、漸進的なアプローチをとることのみにより達成」と強調。非人道性という考えに基づく法規制や、期限を区切った廃絶を願う市民社会の希望とは一線を引いた形だ。

 核兵器保有国、非保有国の共同文書とはいえ、7カ国のうちの非保有国はいずれも「核の傘」の下にあることを忘れてはいけない。今後はロシアや中国、NPT非加盟のインドやパキスタンなどの保有国をどう巻き込むかという大きな課題もある。

 核兵器の非人道性を伝える被爆地を訪れた外相たちが、課題解決に向け役割を担って初めて被爆地開催の意義があったと言えるだろう。

指導者訪問へ一歩

広島平和文化センター 小溝泰義理事長

 核保有国と核の傘に入る国が、核のない世界に向けたメッセージとして「広島宣言」を発したことは評価したい。段階的に進めていくという内容にとどまるが、ヒロシマの思いを深く受け止め、次のステップに向かう可能性がある点で意味がある。

 今、核兵器に頼らない安全保障を考えるべきだ。核兵器は積極的な役割を果たさない。ウクライナや北朝鮮、南シナ海、中東の状況を理由に核軍縮を大胆に進められないとする保有国と、非保有国の対立が深まっている。「向かい風」の中で重要なのが政治的リーダーシップだ。

 互いの違いを乗り越え、多様性を尊重し、相互理解を促す安全保障が必要な時を迎えた。国の指導者が被爆地を訪れれば、一人の人間として感じ、核のない世界に向けて発想することが必ずある。広島訪問は、核の抑止から卒業する「ばね」の役割を担っている。

 一行が原爆ドームを予定外に見学し、ケリー米国務長官が「誰もが広島に行くべきだ」と発言したのは、その表れだろう。広島がオバマ大統領を迎えるチャンスをつぶしたくない。市民社会も協力して、大きなうねりが起きる予感がする。

(2016年4月12日朝刊掲載)

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