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連載・特集

[Peaceあすへのバトン] アーティスト・石原悠一さん 幸せな世界 絵に込める

 かつて僕は引きこもりでした。高校教諭を辞めたばかりのころ。そんな自分を救ってくれたのが、フェルトペンとスケッチブックでした。社会的地位を失った中、気持ちをはき出すため「落書き」を続けたことで、前向きになりました。

 今を大切に生きよう。そう気付きました。過去から学び未来を描けば、自分の幸せが見つかるはずです。今、8月6日近くになると、ステージ上で原爆や、復興に向かう人々の力強さを表現した大きな絵を描きます。「ライブペインティング」。縦180センチ、横270センチのキャンバスに、はけや手を使ってさまざまな色を乗せていきます。

 B29爆撃機、原爆慰霊碑、被爆3日後に走り始めた路面電車、コイと宮島、無数に咲くヒマワリ…。五つの場面を10分で描く間は全力です。終わると、絵の具まみれ。ただ、言葉は使いません。材料として少し抽象的な絵を提供すれば、見る側は自分で考え、ストーリーを組み立ててくれます。

 今ある物を自分のフィルターを通して表現する。アートによって多様な価値観を共有する。いずれも、世界を平和にするプロセスと同じではないでしょうか。幼い頃から日常的に表現するようにしていれば、大人になった時、何か変化が起きると期待しています。

 ことしと2014年、カンボジアの児童養護施設や小学校に行って子どもたちと交流してきました。絵を描いたりサッカーをしたり。支援「する」「される」関係ではなく、「友達」になりたい。そうすれば、互いに長く関わっていけると思うからです。

 驚くのは、現地の子どもたちの想像、創造する力が乏しいことでした。「身の回りの物が生きていたら、どんな世界になるか描いてみよう」。呼び掛けても彼らはなかなか描けません。周囲に絵本も少なく、自分が感情や考えを持っていても、表現する方法を知らないのです。

 長い内戦で文化人や教員たちが虐殺され、国を担う人たちが不足しています。子どもたちが自分の国をどうしたいのかイメージできないと、国をつくることは難しい。活動をきっかけに、子どもの意欲が湧き立てばと思います。

 みんなが幸せに暮らせるような世界をつくっていきたい―。僕の目標です。そんなメッセージを発信し、多くの人に考えてもらうため、絵を描き続けています。(文・山本祐司、写真・福井宏史)

10代へのメッセージ

過去から学び未来を描く

いしはら・ゆういち
 広島市南区出身。崇徳高、岡山理科大を卒業。1年4カ月間の私立高勤務の後、広島大に入学し直して特別支援教育を学ぶ。広島南特別支援学校教諭を経て、2012年から芸術活動に専念する。西区在住。

(2016年4月12日朝刊掲載)

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