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被爆作家 決意映す筆致 「鎮魂歌」など4編 原民喜の直筆原稿発見

 小説「夏の花」で知られる作家原民喜(1905~51年)が、晩年に文芸誌で発表した「鎮魂歌」など小説4編の直筆原稿が見つかった。保存していた出版社の担当者が12日、広島市中区の原爆資料館を訪れ、民喜のおいで著作権を継承した原時彦さん(81)=西区=に返却した。

 4編は、49~50年に文芸誌「群像」(講談社)に発表された。「魔のひととき」(49年1月号)「鎮魂歌」(同8月号)「美しき死の岸に」(50年4月号)「火の子供」(同11月号)。いずれも同社の収蔵庫に眠っていた。

 万年筆で書かれ、民喜のきちょうめんさがにじむ書体。このうち、400字詰め27枚の短編「美しき死の岸に」の原題は「死の回想」だったと判明した。「魔のひととき」とともに、原爆投下の約1年前に亡くなった妻の貞恵を追慕する作品だ。

 同75枚の「鎮魂歌」は、原爆の死者たちと一体となり、祈りに活路を見いだそうとした作品。被爆後の生活苦にあえぐ民喜が「書かなければ自滅だらうと思ふ」との決意で書き残した。「火の子供」と同じく、民喜の被爆体験が基になっている。

 「鎮魂歌」は、昨年12月に公開された映画「母と暮せば」(山田洋次監督)で、音楽を手掛けた坂本龍一さんが一部に曲を付け劇中で歌われた。民喜文学を研究する広島花幻忌の会の竹原陽子さん(39)=中区=が、映画の製作現場を追ったNHKのテレビ番組に直筆原稿が映っているのに気づき、他の3編とともに保管されていることが分かった。

 原時彦さんは「執筆時の思いや苦悩が筆跡に込められていると思う。今後、保管方法や公開について検討したい」と話している。(石井雄一)

(2016年4月13日朝刊掲載)

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