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社説・コラム

『この人』 インドネシアで日本語劇団を主宰する 甲斐切清子さん 

平和の尊さ 舞台に刻む

 「古里であり、原爆の惨禍から復興した広島の街をインドネシアの若者たちに見せたかった。大好きな二つの地をつなぐことができ、感無量です」。同国の首都ジャカルタで主宰する劇団「en(えん)塾」が4月上旬、広島市で初公演し、インドネシア人の大学生たちが日本語でミュージカルを演じた。歌う姿を舞台袖から見守った。

 呉市出身。広高(同市)を卒業後、広島や東京で10年間、フリーアナウンサーとして活動した。その後、バックパックを背負い、3年かけて世界を巡った。インドネシア人の明るさに魅了され、1993年に日本語教師としてジャカルタに赴任した。

 経済成長が著しい同国で日本語を学ぶ人は多い。しかし、インドネシア人を雇用する日本人経営者から「現場で役に立つ会話ができない」という声を聞いた。「何とかしてやろう」と思い立ち、ヒントにしたのはテレビ番組で見た米国の語学学校。演劇のように役柄を決めてやりとりし、会話や人との接し方を実践的に学んでいた。もともと演劇好き。「日本語を実践する最高の場になる」と2009年、劇団を旗揚げした。

 広島公演の2日前、劇団員と原爆資料館を見学し、原爆慰霊碑に献花した。「未来をつくる若者に被爆地・広島でミュージカルを上演できる平和の尊さを感じてもらえたら」と願う。

 東京五輪・パラリンピックで世界の注目が日本に集まる20年まで、全国各地で巡演する。ジャカルタの自宅で「娘のような」劇団員2人と暮らす。(新谷枝里子)

(2016年4月14日朝刊掲載)

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