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連載・特集

おもてなしに広島力 食事会場 両老舗のひと工夫 広島外相会合

 広島で10、11日に開かれた外相会合。8人の外相たちは初日の夜と2日目の昼、食事をしながら討議した。会場となったのは、廿日市市宮島町の旅館「みやじまの宿 岩惣(いわそう)」と、広島市中区の料亭「羽田(はだ)別荘」。創業100年を超える二つの老舗は普段とは勝手が違うことに戸惑いながらも、「和」のおもてなしに心を砕いた。(増田泉子、山瀬隆弘)

 「とにかく議論が中心で食事を楽しんでもらうのが目的ではなかったから」。双方のおかみが口をそろえる。

 広島1区選出の岸田文雄外相がホストということもあり、食材は多くが地元産。外務省からは、食べやすさと、フォークとナイフが使えるように注文が付いた。器はなるべく平たく、刺し身や漬物も、フォークで刺せるようブロック状に…。

 「見た目や、ふたを開けて香りを楽しむような和食ならではの仕掛けはできなかった」。岩惣の岩村玉希さん(41)は残念がる。デザートにあんこをと思ったが、「外国人は甘い豆に違和感がある」と指摘され、クリーム入りのもみじまんじゅうに変更した。

 外国人は食器に口を付けないからと、汁物には木のさじを添えるように言われた。さじから赤だしの実が垂れ下がるのは見た目が悪いと、羽田別荘にはワカメなどの海藻やエノキダケを避けるよう指示があったという。

 席に着いた途端に議論が始まり、時間も限られていた。それでも、全員がほとんど残さずに食べたという。羽田別荘の羽田悦子さん(67)は「皆さん経験豊富で、マナーもよろしいのでは」と語る。

 和食のもてなしとして最も変則的だったのは、会場のしつらえと接客。8人の外相の扱いに差をつけるわけにいかないからだ。

 岩惣は「円形」を求められ、ケリー米国務長官ら長身の出席者に配慮して通常より5センチ高いテーブルを特注して並べた。床を背にする上座には岸田外相が座った。本来ホストは下座だが、議長役としては上座の方がしっくりくる、との外務省の判断だった。

 配膳の所要時間にも「差」は許されない。各外相に担当が1人付き、「ヨーイドン」で8人の担当が一斉に動いた。行程が夕食より30分短い1時間しかなかった羽田別荘では、2品ずつを提供した。

 部屋の中は外相8人だけ。日本語を含め5言語の同時通訳のブースは別室に設けられた。ごちそうのそばには、マイクと予備のマイク、モニターカメラ。ケーブルが敷かれ、電気の容量も増やした。補佐官、警護官、警察官と、総勢は100人を超えた。

 昨夏の打診以降、年明けからは試食や大掛かりな視察が繰り返された。そうした中でも、岩惣はささやかな「サプライズ演出」を外務省に提案した。到着直後と出発前に、紅葉谷に流れる川面で、地元のしの笛奏者の音色を響かせた。岸田外相は一行を呼び寄せ、つかの間耳を傾けたという。

 羽田さんは、会場の床の間に庭に咲くハナミズキを生けた。ハナミズキは、日本から米ワシントンにソメイヨシノを贈った返礼に入ってきた花だ。掛け物は日本画家小野竹喬の「桜」。「きっと、どなたも気づいてはいない。それはそれでいいんです。おもてなしとはそうしたものですから」

岩惣 お品書き

ワーキングディナー(10日)

煮物椀(わん) 宮島・金あなご源平巻き、鍵蕨(わらび)、紅白千鳥
向付      瀬戸の虎魚(おこぜ)、羽太(はた)、桜花独活(う         ど)、吉和山葵(わさび)、芸州造り醤油(じょうゆ)、         豆腐田楽、みやじま蜂蜜みそ
八寸      黄金伊勢海老(えび)、合鴨(あいがも)桜ロース、湯葉         手毬(てまり)寿司(ずし)、檸檬(れもん)カステラ、         早蘇鉄(はやそてつ)、花百合根、薑(はじかみ)
強肴      広島牛黄身辛子(からし)焼き 春野菜添え(菜種、蕗         (ふき)、うるい、たらの芽、碓井豆)
飯       小吹き筍(たけのこ)とアスパラ、呉の豆牡蠣(がき)か         やくご飯
香の物     天しば、絞り大根
留椀      赤だし(西条生揚げ、青さ海苔(のり)、観音葱(ね         ぎ)、山椒(さんしょう))
甘味      くりーむ紅葉饅頭(もみじまんじゅう)と抹茶あいす
乾杯酒     賀茂鶴 双鶴大吟醸
赤ワイン    TOMOE小公子(三次ワイナリー)
白ワイン    TOMOEシャルドネ 新月(同)

羽田別荘 お品書き

ワーキングランチ(11日)

前菜   瀬戸内海産車海老旨煮(うまに)、お多福豆塩蒸し、貝柱からす      み和(あ)え、瀬戸内海産まながつお味噌漬(みそづ)け、三原      産プチトマト梅酒漬け、鴨ロース酒蒸しマスタード掛け
吸い物  三原産グリーンピースすり流し、焼き粟麩(あわぶ)、ふり柚子      (ゆず)
造り   瀬戸内海産あこう昆布締め、三次産穂花、廿日市産山葵、煎      (い)り酒
煮物   瀬戸内海産鯛(たい)くず煮、福山産新里芋、竹原産筍、絹豆、      木の芽
替肴   広島県牛ひれ照り焼き、菜の花、三次産パプリカ、廿日市産あわ      び茸(だけ)、粉山椒、三次産クレソン
揚げ物  海老三次産蓮根(れんこん)はさみ揚げ、廿日市産舞茸、たらの      芽、竹原産筍、蒲刈産藻塩
ご飯、赤だし(廿日市産舞茸、広島産豆腐、広島産ねぎ)、香の物(広島菜、世羅産アスパラ、人参(にんじん)浅漬け)、瀬戸田産せとか
乾杯酒  賀茂泉 白寿純米大吟醸
赤ワイン ジャパンプレミアム 岩垂原メルロー 2012(サントリー、      長野)
白ワイン TOMOEシャルドネクリスプ(三次 ワイナリー)

(2016年4月17日セレクト掲載)

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