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連載・特集

70年目の憲法 第4部 違憲訴訟の問いかけ <2> 国旗国歌

職務と信条 揺れる思い

改憲論でも主張が交錯

 広島県の県立高で今月あった入学式。国歌斉唱―。50代の男性教諭は「起立」の掛け声に合わせ、立ち上がった。「内心穏やかじゃなかった」。2001年に入学式で国歌斉唱時に起立せず、職務命令違反で県教委から懲戒処分を受けた経験がある。

「強制には反対」

 県高教組専従で教諭の門長雄三さん(54)も同年に不起立で処分された。「日の丸・君が代の存在が嫌なわけではない。ただ自分にとっては戦時下を想起させる。画一的な考えや行動の強制には反対」という。

 一方で起立しないことに「式の雰囲気が損なわれる」などとして違和感や疑問を抱く人もいる。

 憲法19条は思想・良心の自由をうたう。門長さんは同じく処分を受けた41人と04年12月、職務命令は違憲として広島地裁に提訴。合憲と判断され、11年に最高裁は原告の上告を退けた。

 学校現場は国旗国歌を巡り、今なお憲法とのはざまで揺れる。旧文部省は1989年、「入学式や卒業式などで国旗を掲揚し、国歌を斉唱するよう指導する」と学習指導要領を改定した。

 教職員組合は指導する立場の教育委員会に反発。広島では県教委が98、99年、国旗掲揚と国歌斉唱の実施を各校長に指示した。同年8月に国旗国歌法が成立。広島の県立学校では校長が教職員に「国歌斉唱時の起立」を求める職務命令を出すようになった。

各地で続く訴え

 他都市では「斉唱」も職務命令に含むケースもあり、減給や再雇用拒否の処分を受けた教員が、各地で相次いで訴訟を起こした。東京では今も裁判が続く。

 広島の訴訟をはじめ、各地裁で原告が敗訴する中、東京地裁は06年、「憲法は相反する世界観や主義、主張を持つ者に対しても相互の理解を求めている」と指摘し、主な訴訟では初めて「違憲」と判断された。だが、二審の高裁で合憲とされ、最高裁は原告の上告を棄却した。

 国旗国歌は憲法改正議論にも及ぶ。自民党の憲法改正草案は「国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする」「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない」と明記する。

 野党は、共産党が「天皇中心の国家の維持・継承を国民に義務づけるものに逆転させる」とし、社民党も「権力制限規範であるべき憲法で規定すべきことではない」とそれぞれ明記に反対。民進党は「時代の変化に対応した未来志向の憲法を構想する」とし「各論については検討中」という。

 広島県教委によると、14年度以降、不起立による職務命令違反の処分者はいないという。憲法を自身のよりどころに6年半、裁判をしてきた門長さんは「多様な思想、信条に寛容な社会であってほしい。その思いは変わらない」と今を見詰めている。(久保友美恵)

国旗国歌訴訟の最高裁判断
 2011年に最高裁の三つの全小法廷が相次いで合憲と判断。東京都の教員と元教員の訴訟で、職務命令を「原告らの歴史観や世界観に基づかない行動を求める点で思想、良心の自由を間接的に制約する」と位置付けたが、「教育上の行事を円滑に進行する命令の目的や内容などを総合的に比較すれば、制約を許容できる程度の必要性、合理性がある」とした。懲戒処分の妥当性が争われた12年1月の判決では、戒告は裁量権の範囲内で適法としたが、減給や停職は慎重な考慮が必要として一部の処分を取り消した。

(2016年4月20日朝刊掲載)

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