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連載・特集

70年目の憲法 第4部 違憲訴訟の問いかけ <3> イラク派兵

権力をけん制 続く役割

安保法施行 懸念消えず

 あの日から8年。2008年4月、航空自衛隊のイラクでの空輸活動は憲法9条に違反するとした名古屋高裁判決。訴訟弁護団事務局長の川口創さん(43)=名古屋市=は市内のビルで当時の資料に目を通した。

 「経験を生かす」。3月施行の安全保障関連法を巡る違憲訴訟の準備に余念がない。「こんな時がここまで早く来るとは。この法のメッセージは世界に伝わっている」。硬い表情に無念さがにじむ。

 新米弁護士だった頃。自宅近くにイラクの子どもを支援する非政府組織(NGO)事務所があり、多くの市民が米軍の空爆の犠牲になっていると知った。日本は米国のイラク攻撃を支持し、イラク復興支援特別措置法に基づいて自衛隊を派遣。空自の拠点が小牧基地(愛知県小牧市)だった。

「信頼を失った」

 加害者の立場になるのは許せない―。04年2月、名古屋地裁に提訴。米国の法律家やNGOなどと連携し、被害の事実を集めた。川口さんは05年にヨルダンに入り、イラクのサマワから逃れた市民に話を聞く。「日本は信頼を失っていた」

 一審は請求を退けたが、名古屋高裁は空自の活動地点を「戦闘地域」と判断。「他国の武力行使と一体化した行動」で憲法9条1項違反とした。「違憲訴訟は権力に歯止めをかける役割がある」と川口さんは意義を説く。政府は「非戦闘地域の要件を満たしている」として活動を継続。判決の5カ月後、駐留根拠の国連決議が期限切れになることなどを理由に08年中の撤退を決め、実行した。

 今、中国や北朝鮮など東アジア情勢は緊迫化し、テロの脅威は世界に渦巻く。この現実の下、安保法が施行された。集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊の海外任務や武器使用の範囲は拡大した。国際貢献も期待される。ただ法は憲法違反との指摘がある。日本がテロの標的になったり、隊員のリスクが高まったりする懸念も拭えない。

命令「従うだけ」

 海上自衛隊呉基地(呉市)は安保法で海外派遣が今まで以上に増えるとの見方もある。派遣経験がある30代隊員は「憲法や政治との関係は考えないようにしている。命令に従うだけ」。一方、かつて呉基地にいた隊員の妻は「もし海外派遣で死んだり、殺したりした場合、どうなるのか…」と不安を口にする。

 東京の弁護士たちを中心にした「安保法制違憲訴訟の会」は20日、安保法に基づく自衛隊の出動差し止めなどを求め、26日に東京地裁に提訴すると発表した。川口さんも弁護団に名を連ねる。「法が動き始めると多くの憲法違反の行為が起きる」。その時に備える。(胡子洋)

安全保障関連法
 安倍政権が2014年7月に閣議決定した憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認や、他国軍への後方支援拡大など新たな安保政策を反映した法律。自衛隊法や武力攻撃事態法など10の法改正を一括した「平和安全法制整備法」と、国際紛争に対処する他国軍の後方支援のため自衛隊を海外に随時派遣できるようにする「国際平和支援法」で構成される。朝鮮半島有事を想定した周辺事態法は「重要影響事態法」と改称され、事実上の活動範囲の制約が撤廃された。

(2016年4月21日朝刊掲載)

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