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連載・特集

70年目の憲法 第4部 違憲訴訟の問いかけ <4> 国籍法

条件緩和 婚外子に希望

父親の認知なお困難も

 「娘が日本国籍を取得した日が2人の人生の記念日です」とウガンダ国籍のナジバンジャ・ジャミラさん(39)=神奈川県=は話し、「小学校、楽しかったよ」と笑う長女の愛ちゃん(6)をぎゅっと抱きしめた。

娘の将来を懸念

 ジャミラさんは2008年、短期滞在のダンサーとして来日。日本人男性と結婚を約束したものの妊娠を告げた途端、音信は途絶えた。1人で出産後、愛ちゃんが成長するにつれ、ある思いが膨らんだ。日本に生まれ、日本語を話すのに国籍はウガンダ―。「娘は将来、自分は何者なんだろうかと悩むのかな…」と。

 日本国籍を得られれば生活しやすくなるとの思いから、外国人支援団体に相談した。既に国籍法が改正されており、父親が子どもを認知すれば可能と聞いた。裁判で男性に認知を得て14年12月、記念日は訪れた。

 国籍法改正―。突き動かしたのは違憲訴訟だった。改正前は、日本人の父と外国人の母の間に生まれた子は「両親の結婚」「父の認知」の二つがそろうことが国籍取得の条件だった。

 「親の結婚の有無で差があるのはおかしい」。05年、未婚のフィリピン人女性と日本人男性の間に生まれ、出生後に認知を受けた子ども9人が「国籍法は憲法の『法の下の平等』に反する」として東京地裁に提訴。最高裁は08年、「不合理な差別を生じさせており違憲」と判断した。国は法を改正し、翌年施行した。

 時にフィリピンに出向き、相談に乗りながら国籍取得を支援する行政書士川崎義和さん(52)=広島市東区=は「国際カップルが増えており、婚外子はレアケースではない」と指摘。法務省によると、改正法による15年の国籍取得者は836人。11~15年は900~800人で推移している。

契約手続きで差

 原告たちによると、改善が進んでいるとはいえ、一般的に日本国籍の有無で家の賃貸やローンを契約する手続きの手間などに差があったり、就職にも困難さがつきまとったりするという。原告の一人、会社員西ジェイサさん(19)=神奈川県=は就職活動の面接のたび、国籍を尋ねられた。「こんなに気にされるんだ…」と実感した。

 1990年代から出稼ぎなどで訪日する外国人が増え、特にフィリピン人女性が日本人男性との間に子どもをもうけるケースは増えた。

 川崎さんによると、日本人男性との間に子をもうけたフィリピン人女性とその子は、国籍取得者も含めフィリピンに計約13万人いるとされる。この中で認知されずに帰国して、現地で子育てしている女性も多く、国籍取得を望む人も相当数いるという。その上でこう指摘する。「父親の居場所を捜し当てるのは一苦労。認知を求める訴訟も費用や時間がかかる。そういう現実もあるんです」(久保友美恵)

国籍法に関する憲法判断
 2008年6月、最高裁大法廷は父母の婚姻を子どもの日本国籍取得の要件とする国籍法3条1項について「国籍取得は基本的人権の保障を受ける上で重要であり、差別的取り扱いによって婚外子が被る不利益は看過できない。規定は不合理な差別を生じさせている」とし、違憲と判断した。判決は、諸外国では婚外子の差別を解消する方向にあるとも指摘した。

(2016年4月22日朝刊掲載)

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