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社説・コラム

『記者縦横』 核なき世界 実現迫ろう

■報道部・水川恭輔

 「被爆の実態に触れ、一人の人間としての思いを述べて」「原爆投下は許されなかったと認めるべきだ」…。広島市での外相会合を前にした連載「ヒロシマの声」の取材で聞いた被爆者の言葉だ。かみしめつつ、11日、現職の米国務長官として初めて平和記念公園(中区)を訪れたケリー氏の記者会見に臨んだ。

 「人として深く心を動かされた」と、ケリー氏は広島訪問の感想を切り出した。原爆資料館の見学については特に語気を強めた。「胸をえぐられるようだった。核兵器廃絶の義務を思い起こさせる」。オバマ大統領の広島訪問を巡る問いにも「ここに来てほしい」と手ぶりを交えて応じた。

 一方、核超大国の理屈も繰り返した。安全保障と両立した段階的な核軍縮を主張。核兵器の法的禁止を急ぐ非保有国をけん制した。

 40分の会見で特に引っかかった発言がある。「戦争は最後の選択肢でなければならない」と言い切った。外交努力を訴える文脈だったが、原爆、戦争の惨禍を「二度と繰り返してはならない」という被爆者の思いとは、程遠い。原爆投下を「最後の選択肢」と正当化するだけでなく、使える兵器として核戦力を温存するのではと疑ってしまう。

 「広島訪問を具体的な行動につなげて」。連載に通底した「声」だ。もしオバマ氏が原爆慰霊碑に向き合うことがあるならば、それをセレモニーに終わらせてはならない。「核兵器なき世界」の一刻も早い実現を迫りたい。

(2016年4月22日朝刊掲載)

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