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社説・コラム

天風録 「チャーチルとEU」

 EUの「生みの親」は英国のチャーチル元首相との説がある。第2次世界大戦後、講演先のスイスで紛争回避のために提唱した「ヨーロッパ合衆国」が、いまのEUの源流だとする視点である▲言い出しっぺの祖国、英国が揺れている。EU離脱を問う国民投票まで、残り2カ月。最初は「残留」が濃厚だったが世論は真っ二つに。「英国」と「出口」を合わせて離脱派を意味する「ブレキジット(Brexit)」なる造語も流行中らしい▲富の集中、移民の急増、雇用の悪化…。マグマのようにたまる不満の矛先がEUの一員であることに向けられているのだろう。排外的にも思える構図は米国の「トランプ旋風」にも似る▲もともと結束力が弱いEUに亀裂が入れば、欧州はバラバラになるという見方も。日本も人ごとではない。投票の行方次第では、ただでさえ弱含みの経済に冷水を浴びせて、私たちの暮らしにも響かないとはいえまい▲「築き上げることは長く骨の折れる仕事。それを破壊するのはたった1日の思慮なき行為」。演説の名手として知られたチャーチルは、かつてそう述べた。没後半世紀、先人の言葉を迷える現代の英国人はどう受け止めるだろう。

(2016年4月28日朝刊掲載)

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