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社説・コラム

『書評』 郷土の本 『ヒロシマ』が鳴り響くとき 音楽で探るヒロシマ像

 国内外の音楽作品の中で、ヒロシマはどう表現されてきたか。「ヒロシマと音楽」委員会の委員長、能登原由美さん(京都市)の著書「『ヒロシマ』が鳴り響くとき」は、音楽からみたヒロシマ像の歴史を解き明かす。約20年にわたり関連楽曲の情報収集に携わった労作だ。

 被爆から数年間は、合唱曲「ひろしま平和の歌」に代表されるように、広島で発表された作品の大半が平和や復興を主題とした音楽だった。しかし連合国軍総司令部(GHQ)の占領が解かれると、原爆詩や絵画作品と同様に、過酷さを隠さない表現が増えていく。そうした傾向は1954年の第五福竜丸事件で拍車が掛かったという。

 ヒロシマを主題とした初の交響曲を作ったのは、フィンランドのエルッキ・アールトネンとみられる。原爆投下から4年後の49年に交響曲第2番「HIROSHIMA」(ヒロシマ・シンフォニー)を作曲した。ヘルシンキで初演された後、東西冷戦下の東欧諸国で受容された経緯は興味深い。著者はアールトネンの遺族を現地で捜し出し、資料を掘り起こした。

 241ページ、2376円。春秋社。(上杉智己)

(2016年5月1日朝刊掲載)

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