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神が導いた被爆者との絆 前田・カトリック広島司教区長 赴任半年 

 カトリック広島司教区の前田万葉司教(63)が同教区長に就任して23日、半年を迎える。長崎県出身で自らも被爆2世。広島に赴任したのも神の意志と受け止め、被爆者との触れ合いに深い関心を寄せる。一方、管轄する中国5県は、カトリックの歴史も数多く刻まれる地。これまでも力を注いできた地域との絆づくりにも意欲をみせる。(伊東雅之)

 ―被爆2世とお聞きしましたが。
 母が19歳の時、長崎で被爆した。爆心地から近い軍需工場だったので多くの同僚や、妹を亡くした。被爆については多くを語らず「自分が生きているのは神様のおかげ」と、ただ手を合わせている姿をよく見た。その母から生まれた私が広島に赴任したのも神の意志のような気がしている。

 被爆者としての不安や悩みを抱えている広島の方々とも同じ被爆者の立場から触れ合い、支え合うことができたらと思っている。

  ―中国地方での生活はどうですか。
 31年間司祭としてつとめた故郷の長崎県のように信者が多い地域ではないが、信者たちの信仰は長崎と同じように生活に溶け込んでいるようで、親しみを感じる。フランシスコ・ザビエルの布教や、隠れキリシタンの殉教、流配の地が点在しており、背景にはそうした歴史的な影響もあるのかもしれない。

 例えば、江戸時代から明治への移行期にあった「浦上四番崩れ」と呼ばれる長崎での弾圧事件で全国に流配となった信者のうち中国地方へは、3分の1の約1100人に上った。このような歴史の残る地域の司教に任命され、責任の重さを感じている。

 ―広島に来られる前に取り組んできたことを教えてください。
 キリスト教徒が多い五島列島で生まれた。この道に進んだのも、村民から慕われていた郷里の教会の司祭にあこがれていたからだ。長崎時代も平戸や五島など地域に根差した教会での生活が長く、住民との触れ合いや協力を一番に考えてきた。

 中でも力を入れて取り組んだのが地元観光協会との事業。全国から訪れる観光客に、信仰や弾圧の歴史を解説したり、聖書の言葉などを引用しながら平和や命の大切さについても話をしたりした。司祭から説明があれば観光客の感じ方や思い出も変わるだろうし、私たちもカトリックのことを知ってもらうよい機会になる。地元経済も潤い、皆が喜び合えると考えた。

  ―広島司教区では、どのような取り組みをしたいですか。
 世界平和記念聖堂(広島市中区)でのクリスマスイブのミサに信者以外の人たちも多く出席していたのを見て、地域の文化として溶け込んでいると感じた。長崎時代と同じように訪ねてくれる市民や観光客にもできるだけ接し、この地域のカトリックの歴史や聖書の言葉を伝えていければと思っている。

 前任の三末篤実(みすえ・あつみ)司教も長崎県出身で、長崎司教区、中央協議会事務局長、広島司教区長という経歴も同じ。三末司教がこの地で情熱を傾けた他宗教、海外教区との交流、平和に向けての行動は今後も引き継ぎ、世界にも発信していきたい。

(2012年3月19日朝刊掲載)

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