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緊急連載 オバマ氏広島へ <中> 日米の思惑

「未来志向」アピール 緊密連携 双方に利益

 「大統領が被爆地から世界へ、核兵器のない世界の決意をあらためて発信するのは子、孫たち次の世代にとって意義がある」(安倍晋三首相)

 「核兵器なき世界の実現へ、大統領はさらに前向きなシグナルを発信しようとしている」(ホワイトハウスのアーネスト大統領報道官)

 日米両政府がオバマ米大統領の広島訪問を発表した10日。それぞれの記者団とのやりとりから、事前に緊密な意思疎通を図ってきた様子をうかがわせた。キーワードは「未来志向」だ。

被爆地に布石

 オバマ氏訪問の布石は、被爆地に着々と打たれてきた。主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に先立つ外相会合に合わせ、広島市を訪れた米国のケリー国務長官が4月11日、平和記念公園(中区)を訪問。続く記者会見で、原爆資料館の展示の感想を「衝撃的だった」と率直に語った。

 一方でこうも強調した。「過去にとらわれてきたのではない。教訓を現在、未来に生かすのが大切なのだ」。米国で71年前の広島、長崎への投下を正当化する世論は根強い。ケリー氏の発言は、被爆地訪問を「謝罪外交」と捉えかねない米国内向けにほかならない。

 被爆国も環境づくりをアシストしてきた。安倍氏は10日、オバマ氏に謝罪を求めるか否かを問う記者団の質問に正面から答えず、犠牲者の追悼と「核兵器なき世界」へのメッセージを発信する意義を繰り返し説いた。

「遺産づくり」

 こうした日米両政府の姿勢に冷めた見方はある。「オバマ氏の個人的なレガシー(政治的遺産)づくりでしかない」と、米国の平和活動家ジャッキー・カバソ氏(カリフォルニア州)。オバマ政権が核兵器や関連設備の改良へ、今後30年で1兆ドル規模の予算を想定していると指摘。「聞き心地のいい言葉を並べても、政策は矛盾だらけだ」と言い切る。

 「訪問を通じ、核兵器なき世界の理想に向け、日米政府が協力していく流れをつくりたい」。10日夜、岸田文雄外相は被爆国の役割に言及した。

 ただ、その手だてはあくまで、米国をはじめ核兵器保有国が重視する現実的、実践的な核軍縮でしかない。

 「大統領の決断は、日米の友好の精神と揺るぎない同盟関係のたまものだ」。オバマ氏に近いキャロライン・ケネディ駐日大使が10日発表した声明が、訪問のもう一つの意味を指し示す。

 2012年の第2次安倍政権発足後、強固な日米関係の構築に向けて突き進み、さらなる日米同盟の深化をアピールしたい安倍氏。被爆地で「核兵器なき世界」を訴え、レガシーをつくりたいとされるオバマ氏。そうした両者の思惑の一致が、現職大統領の初の訪問実現につながった。(田中美千子)

(2016年5月12日朝刊掲載)

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