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社説・コラム

『潮流』 つながってる

■報道部長・金森勝彦

 大粒の雨が降りしきる中、彼女は歌い始めた。

 「ひとりじゃない 深い胸の奥でつながってる」。透き通っていて、それでなお力感あふれる歌声が、広島市の平和記念公園に響き渡った。40回を迎えたフラワーフェスティバル(FF)のスペシャルゲスト、歌手の平原綾香さん。8千人の傘の輪がステージを囲んだ。

 デビュー曲「Jupiter(ジュピター)」の慈愛に満ちた歌詞が心に染み入る。「力を合わせて困難を乗り越えるとき。歌の力を信じ、できることを探していきたい」。毎年、熊本でコンサートを開く平原さんは被災地に思いを寄せた。「いつも以上に力強い歌声になった」とも。

 この14日で発生から1カ月になる熊本地震。今なお1万人以上が避難を余儀なくされる。そうした中で開かれたFFは「被災地支援」のメッセージがステージから、パレードから、そして参加した市民から脈々と伝わってきた。

 熊本県内の10店が出店した物産コーナー。名物からしれんこんを持参した熊本市の業者は本社工場が壊滅的被害を受けながら、復旧にめどを付けて広島に駆け付けた。「地震なんかには負けない。こうした活動を続けることで復興も進んでいくはず」と気丈に振る舞った。

 かまぼこを扱う芦北町の業者は「頑張ってねと声をかけてもらい、ありがたかった」と受け止めた。震災後、初の県外出店だったといい「とにかく元気に仕事している姿を伝えたかった」と商売できる喜びをかみしめた。

 感謝、祈り、慰霊、そして喜びや悲しみなどさまざまな思いを包み込み、力強く発信する力を持つ祭り。FFの今年のテーマは「未来へつなぐ 花と笑顔の40年」。会場に設置された義援金の箱には、多くの善意が集まった。被災地の未来にも笑顔があふれますように。

(2016年5月12日朝刊掲載)

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