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社説・コラム

[被爆者からオバマ氏へ] 慰霊の祈りささげて 田中稔子さん=広島市東区

  ≪牛田国民学校(現牛田小)1年の時、爆心地から約2・3キロで被爆。七宝作家の傍ら国内外で証言活動を重ね、今春、自宅に「平和交流スペース」を造った≫
 謝罪より、まず敬虔(けいけん)な気持ちで犠牲者に慰霊の祈りをささげてほしい。そして、「核と人間は共存できない」ことを軸に、核兵器の非人道性にも触れて演説してもらいたい。核軍縮を目指す国連作業部会に弾みがつくよう願っている。

 あの日、登校中、桜の木の下で友達を待っていた。「敵機だ」。誰かの叫び声で空を見上げた。ピカッという光とともに、熱を帯びた砂嵐に襲われた。気付けば桜が根を上にしてひっくり返っていた。

 自宅に戻り、崩れた屋根の裂け目から見た青空が忘れられない。周囲の家は破壊され、人々は悲惨な姿。灰色の世界が広がるのに、空の青さだけは変わらなかった。「明日がある」という希望を与えてくれた。

 右腕と頭にやけどを負い、意識を失って数日間寝込んだ。一度死にかけた。だから今、生きることに意味を感じている。核兵器廃絶は私たちの役目。そんな思いを七宝作品にも込め、表現してきた。

 広島訪問に、あの日の青空のような希望を感じる。大統領の言葉一つで次の展開があるかもしれないと思うからだ。「核兵器なき世界」の実現を唱えた2009年のプラハ演説に勇気をもらい、証言にも力が入った。その後、トーンダウンしたように見える。任期も残りわずか。中途半端のままで終わらせないでほしい。(山本祐司)

(2016年5月13日朝刊掲載)

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