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緊急連載 オバマ氏広島へ <下> 迎える先に

核廃絶へ具体的一歩を 議論停滞 打破狙う

 オバマ米大統領の広島訪問発表から一夜明けた11日。迎える準備を始めた広島市の松井一実市長は高揚感を隠さなかった。「核兵器のない世界へ具体的な一歩を踏み出す対応を広島の地で決め、世界をリードしてもらうのが願いだ」

 2009年4月のプラハ演説で「核兵器なき世界」を目指すとして国際社会の機運を高め、ノーベル平和賞を受けたオバマ氏。廃絶への流れを加速させるため被爆地からメッセージ発信を―。市は、秋葉忠利前市長時代から長崎市とともに訪問を要請し続けてきた。

 しかし、この間、核を巡る世界の情勢は混迷した。プラハ演説でオバマ氏は、ロシアとの核兵器削減交渉の進展を掲げた。ロシアとはウクライナ問題などで緊張が高まり、さらなる削減の動きは停滞する。

 5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議は昨年5月、核兵器の法的禁止を急ぐ非保有国と、米国をはじめとした保有国との対立の末、決裂した。

慎重論に配慮

 その流れで、核軍縮の進展を目指す国連作業部会に保有国は出席していない。松井市長が会長を務める平和首長会議は、出席を求める公開書簡を米国連代表部に送ったが、返事はない。松井市長は、オバマ氏に求める具体策に関し「為政者の判断だ。私自身、知恵がない」と言う。

 「広島でオバマ大統領が大々的に演説する予定はない」。ホワイトハウスのアーネスト報道官は11日、明言した。プラハ演説を上回る「ヒロシマ演説」への期待を打ち消した格好だ。広島訪問に対する国内の慎重論への配慮が透ける。

 「手放しの歓迎は、核兵器の非人道性を踏まえて禁止を訴える市や被爆者団体との立場とは矛盾する。行動を迫る働き掛けがもっと必要ではないか」。市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」の森滝春子共同代表(77)は問い掛ける。

 同会は近くホワイトハウスへ要請文を送り、非人道性の観点で原爆投下は間違いだったと認め、法的禁止の議論に加わるよう求める。オバマ氏が訪れる27日、市内でシンポジウムを開く準備を進めている。

宣言に要請も

 国際反核法律家協会も公開書簡を送付。国際司法裁判所(ICJ)は1996年、核兵器の使用や威嚇は国際法や人道法に「一般的に違反する」との勧告的意見を出した。書簡では使用と威嚇を決してしないと広島で宣言するよう求めた。

 1、2月にオーストリア・ウィーンであった包括的核実験禁止条約(CTBT)のシンポジウムに出席した倉光静都香さん(19)=廿日市市=には、一緒に参加した海外の若者からメールが相次ぐ。オバマ氏の演説があれば、それを聞き、可能ならCTBT批准を訴えてほしいとの内容だ。

 「オバマ氏の言葉を受け身で聞くだけでなく、私たちに何ができるか考える機会にしたい」

 5月27日が「核兵器なき世界」実現への歴史的な一日になるのか、否か。世界が注視する。(水川恭輔)

(2016年5月13日朝刊掲載)

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