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社説・コラム

どう見る米大統領広島訪問 広島市立大広島平和研究所・水本和実副所長 

核禁止 評価の分かれ目

  ―オバマ政権の核政策をどう評価しますか。
 オバマ氏個人は、核兵器がない世界を願っていると思う。過去の政権とは違うカラーを出そうとしてきた。例えば、2010年には「核体制の見直し(NPR)」で核兵器の役割を減らすことに言及した。全面的に公開したのも初めてだ。13年のドイツ・ベルリンでの演説では、ロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)からさらに配備済み戦略核弾頭数を3分の1減らす用意があると表明した。

 チェコ・プラハでの演説が劇的だったので、その後に色あせた感はある。ただ、米国内の現実主義者や保守派を常に相手にし、議会で少数派になりながらも大統領権限でできることはやろうとしてきた。広島市の平和記念式典にも駐日大使を出席させ、被爆地を気にしているというメッセージを送り続けてきた。

  ―核保有数は減っていますが、廃絶に向けて進んでいるのでしょうか。
 米ロが世界の核兵器の93%を持っており、一定数に減らさないと他の国がついてこない。持っている物を安全に減らしていく段階ではある。

  ―原爆を落とし、今も強大な核戦力を持つ米国の大統領が被爆地に立つ意味は。
 国家として原爆投下という非常に重大な決定をし、行為をした結果が広島にある。生半可な気持ちでは来られない。もし間違って使われても非人道的な結果を引き起こすという責任の重みを確認し、その上でオバマ氏がどう反応するかだ。

  ―廃絶へ意味のある訪問にするには具体的にどんなメッセージが要りますか。
 自国以外の特定の保有国やテロリストに核を使わせないために核抑止力が必要だとオバマ氏が考えれば、国際社会の核兵器の法的禁止の議論が進まない。

 全ての核兵器は危険で、非人道的な結果をもたらすと言うべきだ。核兵器による安全は保たれない、とも踏み込んでほしい。核時代をもたらした国の責任において、全ての核を禁止する方向で取り組もうと呼び掛けるかどうか。被爆地にとっては、そこで評価が分かれると思う。

  ―オバマ氏は原爆投下について謝罪すべきだと思いますか。
 個人的には、原爆投下は当時の国際法に違反していると考える。ただ、謝罪の前に、どういう責任があるのか時間をかけて丁寧に議論し、明確にしないといけない。感情論で謝れという話ではない。(岡田浩平)

    ◇

 27日に米国の現職大統領として初めてオバマ氏が被爆地広島を訪れる意義や背景を識者たちに聞く。

みずもと・かずみ
 1957年、広島市中区生まれ。東京大法学部卒。米タフツ大フレッチャー法律外交大学院修士課程修了。朝日新聞ロサンゼルス支局長などを経て98年4月に広島市立大広島平和研究所助教授。2010年4月に教授。同年10月に副所長に就いた。専門は核軍縮。

(2016年5月14日朝刊掲載)

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