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社説・コラム

どう見る米大統領広島訪問 広島女学院大元教授・宇吹暁氏

ヒロシマ 問い直す機会

 ―広島の戦後史にオバマ米大統領の訪問はどう位置付けられますか。
 ヒロシマは戦後一貫して国際政治に関心を持ってきた。原爆被害へ世界の目を向けさせるため、海外の要人、有名人の訪問を早くから歓迎し、招待もしてきた。原爆を投下した米国からもだ。

 実現しなかったが、広島県被団協は結成2年後の1958年、原爆を落としたB29爆撃機エノラ・ゲイ号副操縦士だった故ロバート・ルイス氏を招こうとした。その歴史軸で見ても国務長官、大統領の相次ぐ訪問は非常に重要な動きだ。

  ―迎える広島の変化は。
 研究を始めた60年代ごろは、歓迎ぶりに「(被害を)売り物にしとる」と否定的な受け止めもあった。政党宣伝の「貸座敷」にされてはいけないとの議論も起こった。

 今回もその懸念はあるが、要人訪問を含む広義の「観光」が持つ意味が昔とは変わったプラス面も考えたい。国家戦略もあって外国人の訪日が増え、観光はもはや相互理解の重要な手段になった。各国首脳の訪問も、国際化には避けて通れない道だ。政治的な思惑を超えて意味ある歴史・国際理解の場にするため、官民がどう知恵を絞るかが大切ではないか。

  ―ヒロシマがオバマ氏に訴えるべきことは。
 「まどうてくれ(元通りにしてくれ)」。日本被団協初代事務局長、故藤居平一さんが使った言葉を原点にしたい。「元通りにできんなら、せめて援護法だ」と訴えた言葉だった。今なら、核兵器保有国に対し「元通りにできないような被害を及ぼす兵器が許されるのか」という意味を持ち得る。「絶対悪」と認めさせることに通じる。

 一方、日本政府が掲げる保有国と非保有国の「橋渡し役」という言葉にくみしては、ヒロシマの訴えの否定につながる。中間ではなく非保有国側に立って、核抑止からの脱却と核兵器の廃止を求めるべきだ。ヒロシマは核戦争による人類絶滅の危機に警鐘を鳴らし、廃絶という理想を掲げ続ける象徴。現実的な立場を取ると、「絶対悪」の訴えも弱まってしまう。

  ―訪問の先の展望は。
 オバマ氏は、核テロのリスクなど、広島であまりなかったレベルの議論を踏まえて訪れ、考えを表す。それを「だし」に、核を巡って国連、保有国、非保有国、非政府組織(NGO)などのせめぎ合いが強まるはずだ。地殻変動につながり得る新たなうごめきを意識し、ヒロシマが今後、何をどう伝えていくか、問い直す機会にすべきだ。(水川恭輔)

うぶき・さとる
 1946年、呉市生まれ。京都大文学部卒。広島大原爆放射能医学(現放射線医科学)研究所助教授などを経て、2001年から11年まで広島女学院大教授。専門は被爆史、日本戦後史。

(2016年5月15日朝刊掲載)

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