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社説・コラム

どう見る米大統領広島訪問 同志社大教授・村田晃嗣氏 和解外交 政権の集大成

  ―オバマ政権が訪問を決断した背景は。
 オバマ氏の「和解外交」の総決算という位置付けだろう。昨年7月、核開発を制限することでイランと最終合意し、今年3月にはキューバ訪問に踏み切るなど、敵対関係の改善を政権の集大成に押し出している。米国が原爆を投下した広島を訪れるのはシンボリックだ。受け入れる広島の変化も大きい。市民が訪問を求めて手紙を送るなど重層的で穏当な働き掛けがあった。やじを浴びせられる環境では大統領は来ない。

  ―広島訪問に何を期待しますか。
 退任する大統領であり、演説で新たな政策パッケージの発表を求めるのは、ないものねだりだろう。今後、核問題で最終合意したイランとの関係が安定するかどうかは未知数であるように、オバマ氏の和解外交はそもそもイメージ優先だ。

 ただ、被爆者が生きている間に原爆の犠牲者を追悼するという点で道義的な意味は大きい。日本では反核と反米の感情が結び付きがちだが、それが弱まり日米関係の底支えにつながると期待したい。広島も謝罪ではなく和解を求めるべきだ。日本と韓国、中国などとの関係も和解重視であってほしいし、オバマ氏訪問によってそれらの関係がいい方向に向かってほしい。

  ―大統領選への影響は。
 共和党候補として指名獲得が確実なトランプ氏が広島訪問を「謝罪外交」「弱腰外交」と批判すれば、過去の選挙に比べて日米関係に注目が集まる可能性がある。民主党の候補指名争いで先行するクリントン前国務長官が、トランプ氏から議論を吹っ掛けられて「私は広島に行かない」などと発言すれば、日米関係にとって非常に具合は悪い。ただ実際にどう展開するかは、なかなか読めない。

  ―オバマ政権下での米国の核軍縮の評価や展望は。
 具体的な成果は乏しかったが、オバマ氏だけに責任を問えない。米議会があまりに党派的になり、共和党が何でも反対し、中道の世論もしぼんだ。米国と並ぶ核超大国のロシアとの関係がウクライナ問題などで悪化した影響も大きかった。

 ただ今後、米ロが、中国の台頭やテロ対策という安全保障上の共通課題に向き合うため協調する可能性はあり得る。米ロの核軍縮が大胆に進めば、やがて中国の核軍縮をどう進めていくかが問題になる。オバマ氏が言うように、米国は「核兵器なき世界」に向けて何十年というスパンで段階的になくすプロセスを取り続けるだろう。(水川恭輔)

むらた・こうじ
 1964年、神戸市生まれ。神戸大大学院博士課程修了。広島大総合科学部助教授などを経て、2000年に同志社大法学部助教授、05年教授。13年4月から16年3月まで学長を務めた。専門は米国外交・安全保障政策。

(2016年5月16日朝刊掲載)

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