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社説・コラム

社説 国連核軍縮作業部会 停滞を打ち破るために

 オバマ米大統領が唱える、核兵器なき世界を目指す潮流は残念ながら停滞の感が否めない。ジュネーブで開かれた国連の核軍縮作業部会は核兵器を法的に禁止する条約の是非を巡って、各国の意見が対立したまま2回目の会期を終えた。

 核兵器禁止条約を作るべきだという声は、非保有国に高まるばかりだ。一方、保有国は会議そのものをボイコットし、日本など米国の「核の傘」の下にある国々も「段階的に減らすべきだ」として反対している。

 そうした状況の中で作業部会は8月にも再度開かれ、秋の国連総会に提出する報告書をまとめることになっている。今回はその具体的な文案を巡って各国の思惑が交錯し、意見が噴出したようだ。両者の亀裂はむしろ深まり、膠着(こうちゃく)状況に陥ったかのように見える。

 このままでいいのか。禁止条約に賛同する国々の根底には、核兵器の「非人道性」を巡る意識があるはずだ。ひとたび核兵器が使われれば、市民が無差別に殺される。そして放射線被曝(ひばく)は国境を越えて広がりかねない。その危機感が、条約の推進を促している。

 それなのに議論を骨抜きにしようとしているのが被爆国である日本や北大西洋条約機構(NATO)の一部加盟国である。日本の佐野利男軍縮大使は今回の部会でも禁止条約の流れについて「核保有国と非保有国を分断させかねない」と賛成派をけん制し、徐々に核軍縮を進めていく「進歩的アプローチ」という新たな提案をした。

 廃絶時期の目標を示さず、安全保障を重視しつつ核兵器を減らすことを、保有国に求める手法のようだ。それが「進歩的」だとは到底、思えない。

 日本政府の姿勢の裏には米国の「核の傘」に安全保障を頼る日米同盟の現実があろう。核兵器廃絶には保有国を含む広い賛同が要る、という考えも分からなくもない。しかし核軍縮を義務付ける核不拡散条約(NPT)があるにもかかわらず、これまで廃絶の議論は一向に進まなかった。

 その延長線上ではなく、大胆な手法で踏み出さない限り核兵器なき世界は実現できまい。

 作業部会の停滞は、核兵器なき世界の実現が多難であるという現実を映したともいえる。日本政府に厳しい現状を打ち破る意志が本当にあるかどうか。核兵器なき世界を求めると口にしつつ、実際の国際政治の舞台で禁止条約の流れを妨げる日本の「二面性」に、国際社会から冷ややかな目が向けられているのを忘れてはなるまい。

 理想と現実の落差が浮き彫りになる中で、27日にオバマ大統領の歴史的な広島訪問を迎えることになる。

 同行を決めた安倍晋三首相はオバマ氏の決断を手放しで称賛し、「核兵器のない世界に向けて大きな力になる」と述べている。ただ大統領が被爆地の土を踏むだけで核軍縮への機運が高まり、かつ廃絶への議論が前進すると考えているのなら楽観的に過ぎるのではないか。

 日米が広島から世界に向けてアピールすること自体の意味はむろん小さくない。ただ廃絶を求める世界の圧倒的多数の声に背を向けたままでは説得力がどれほどあるだろう。その点をしっかり認識してもらいたい。

(2016年5月18日朝刊掲載)

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