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社説・コラム

『この人』 第25回林忠彦賞を受賞した写真家 船尾修さん 

未救済の残留邦人に光

 戦後70年の昨年出版した写真集「フィリピン残留日本人」で林忠彦賞を手にした。「初めて戦争をテーマにした、自分の岐路となった作品。受賞で、置き去りにされてきた問題が少しでも前進すれば」と喜びを語る。

 2008年夏。ルソン島北部の棚田群を取材中、キアンガンという町で出会った老婦人の厳しい視線と言葉が全ての始まりだった。「日本人なんか大嫌いよ」と。

 太平洋戦争の激戦地となったフィリピン。老婦人はこの地で旧日本軍を率いた山下奉文大将が投降した様子や、戦前は多くの日本人移民が暮らしたことを語った。移民と現地女性の間に生まれた子が、戦争に組み込まれた父と引き裂かれ、過酷な運命をたどったと知った。

 翌年から十数回、フィリピンに渡り、日系2世約60人を自宅に訪ねてモノクロフィルムで肖像を収めた。多くは身元を示す書類をなくし、日本人ともフィリピン人とも認められず苦労を重ね、生活は貧しかった。日本国籍を回復できていない人は今も千人以上いる。高齢化する2世の救済は「まさに戦後処理の問題」と指摘する。

 神戸市出身。東京の出版社を退社後、日本人未踏ルートで国内外の岩壁に挑み、合間にアフリカを延べ4年間放浪。30代半ばで写真家となり、アジア、アフリカや日本人の精神文化をテーマに作品を発表してきた。

 01年、東京から大分県国東半島へ移住。「半農半写」のスタイルを貫く。次回作は旧満州国(中国東北部)がテーマで「なぜ日本は戦争に突き進んだのか、自分なりに表現したい」。同県日出町で妻、娘2人と暮らす。(山中和久)

(2016年5月20日朝刊掲載)

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