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社説・コラム

どう見る米大統領広島訪問 元広島市長・平岡敬氏 原爆投下の過ち述べよ

  ―原爆投下に始まる核超大国の現職大統領が27日、初めて被爆地を訪れます。
 そもそも何をしに来るのかと問いたい。側近のライス大統領補佐官は「いかなる状況でも謝罪しない」と言う。それでは原爆慰霊碑の前に立つことに本当に意味があるといえるのか。

 米国に追随して軍事同盟を強化する安倍晋三首相だけではない。残念なことに広島市と広島県のトップや今の被爆者団体幹部も、「謝罪は求めない」「未来志向」と訪問を歓迎する。原爆は人間を大量無差別に殺りくし、放射線で今日に至るまで緩慢に死を強いる。無残に殺された死者を冒涜するような発言を軽々に口にするべきではないと思う。

  ―とはいえ、世界が注視する歴史的な訪問では。
 だからこそオバマ大統領は、原爆投下は間違っていたと表明するべきだ。「核なき世界」という言葉だけではなく、核の力を否定して廃絶を実現する道筋を語ってほしい。直接的な謝罪は、投下の正当化論が根深い国内政治や次期大統領選からも難しいだろう。だが、投下は正しかったとする限り核兵器を再び使ってもいいとなりかねない。

 原爆慰霊碑に刻まれた碑文の「過ちは繰返しませぬから」は、米軍主導の占領体制を引きずる中で刻まれた。主語が明確でないため批判されてきた。原爆使用の「過ち」について、私たちももっと考えるべきだ。過去を省みずして未来は語れないと言いたい。

  ―広島市長だった1995年、被爆・戦後50年でもあった平和宣言で「記憶は過去と未来の接点である」と呼び掛けた真意は?
 日本の植民地支配や侵略戦争がアジアの人々に耐えがたい苦難をもたらした。そのことにも目を背けてはならないからだ。第2次大戦終結40年に(当時)西ドイツのワイツゼッカー大統領が発した「過去に目を閉ざす者は現在にも盲目になる」との言葉も意識した。

  ―「原爆は国際法違反の非人道的兵器」。オランダ・ハーグにある国際司法裁判所で95年訴えました。
 原爆はハーグ陸戦条規(1907年)などに照らしても明らかに国際法に違反している。私見ではない。被爆者が援護がなかった55年に起こした「原爆訴訟」で東京地裁は63年、損害賠償は退けたが「投下は国際法違反」と認めた。政府は控訴せず確定した。若い世代も知ってほしい。

 米大統領の訪問は核の発射命令装置を携えて来るということだ。同行する首相の思惑にも意識的でありたい。ヒロシマが、日米首脳が同盟関係を確かめるパフォーマンスの場に使われてはたまらない。その恐れがある。取り越し苦労であってほしい。(西本雅実)

ひらおか・たかし
 1927年生まれ。祖父が会社を営んだ朝鮮半島から45年、広島に引き揚げ。早稲田大卒。中国新聞記者だった65年、在韓被爆者の現状をいち早くルポ。中国放送社長を経て91年から広島市長を2期。著書に「希望のヒロシマ」など。核実験や内戦の被害者を支援する市民活動などに当たる。

(2016年5月21日朝刊掲載)

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