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社説・コラム

社説 沖縄元米兵逮捕 「綱紀粛正」もはや限界

 またしても許しがたい事件が沖縄で起きた。行方不明になっていた20歳の女性の死体を遺棄した疑いで、元米海兵隊員で軍属の男が逮捕された。殺害をほのめかす供述もしているという。基地絡みの凶悪犯罪は後を絶たない。言葉だけの綱紀粛正や再発防止ではもはや限界だ。

 「徹底的な再発防止など厳正な対応を米国側に求めたい」。きのう、安倍晋三首相の言葉は沖縄県民にどう聞こえたか。歴代政権から何度も聞き、そのたびに裏切られてきた。県民は怒りを抑えきれないでいよう。

 現にことし3月にも那覇市で女性観光客が暴行され、米兵が逮捕された。この時も県が米軍に綱紀粛正を求めたが、痛ましい事件が繰り返された。

 今回の容疑者は除隊後、嘉手納基地で電気関係の仕事をする民間人の軍属だった。教育責任がある米軍は何をしていたのだろう。場当たり的な対応では何も変わらないということだ。

 昨年、米軍人や軍属、その家族による刑法犯摘発は全国で76件に上り、半数近くの34件は沖縄だった。今回も「基地があるがゆえに事件が起きてしまった」と翁長雄志(おなが・たけし)知事は断じる。

 容疑者逮捕のおととい、知事は米国から帰ってきたばかりだった。普天間飛行場の辺野古移設を含め、理不尽な状況を伝えに行っていた。基地の危険は、今回のような凶悪犯罪も含む。知事の怒りもなおさらだろう。

 思い出されるのは、沖縄の女子小学生が米兵に暴行された1995年の事件である。反基地感情が噴き出し、日米両政府による普天間返還合意につながった。だが20年たっても返還されず、負担軽減は進んでいない。

 凶悪犯罪がこうも繰り返される以上、米軍基地の整理・縮小を加速させるしかあるまい。完全撤去を求める声も一層増えてこよう。むろん実現には、米軍の最高司令官を動かさねばならない。そのオバマ大統領が間もなく日本にやって来る。

 主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に合わせ日米首脳会議を開く。安倍首相は沖縄の現状や怒りを率直に伝え、基地問題の踏み込んだ議論をすべきだ。

 すぐにでも手を付けられるのは日米地位協定である。今回は公務外の軍属が犯した事件で米側は捜査に全面協力する方針という。しかし米軍人らの公務中の犯罪は米側に第1次裁判権があり、かねて不平等が指摘されてきた。犯罪抑止の観点からも日本側から見直しを求めたい。

 政府与党は安全保障関連法の施行などを受け、かつてない良好な日米関係をアピールする。今こそ対等な同盟関係を示す時だが、政府は事件の早期収拾を図る考えだ。参院選対策かと思いきや大統領の広島訪問への影響も考えてのことらしい。

 沖縄が気兼ねする必要はなく、大統領に明確な謝罪を求めるべきだ。そもそも日本政府はどっちを向いているのか。過重な基地負担を押し付けてきた責任を忘れてはならない。

 辺野古移設についても言える。訴訟の和解を受け、政府と県は打開策を探る作業部会を月末に予定していた。政府側が延期を申し入れたのは当然だ。そのような状況にない。

 戦後71年、復帰44年になるのに、もう限界だ―。沖縄の声を両政府は受け止め、一刻も早く痛みを取り除くべきだろう。

(2016年5月21日朝刊掲載)

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