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社説・コラム

天風録 「文革発動50年」

 ジョン・ローン扮(ふん)する溥儀(ふぎ)が、北京の大通りで糾弾される老人を懸命にかばう。何かの間違いです―。映画「ラストエンペラー」も終わりのシーン。日本の敗戦後、政治犯収容所にいた元皇帝に、人として接してくれた所長が老人だった▲映画に創作は多々あろう。だが新中国建設に寄与したはずの人まで、いわれなき罪で迫害された「暗黒の10年」は厳然たる事実だ。あの毛沢東が文化大革命(文革)という名の粛清劇を仕掛けて、50年の歳月が流れた▲全土で犠牲者は1千万人と推定される。紅衛兵と呼ばれた若者が知識人や官僚をつるし上げ、寺院や教会を打ち壊した▲西洋音楽までやり玉に挙がったことに驚く。広島でも演奏したバイオリニスト劉薇(りゅうえい)さんは、中古品をひそかに娘のために改造し、譜面を書写してくれた父親に育てられた。暗黒の10年が終わって初めて、劉さんはピアノの伴奏を得て心震えたという▲今の中国では文革は誤りだったとされる。しかし格差が広がり官僚の腐敗が深刻になると「文革思考」をあおる者が出てくる―。人民日報の元論説委員氏さえ、こう憂えた。何かの間違いだろうと思うような、歴史のフィルムの巻き戻しはごめん被る。

(2016年5月22日朝刊掲載)

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