×

社説・コラム

どう見る米大統領広島訪問 前広島市長・秋葉忠利氏 被爆者と面会し公開を

  ―市長在任中に造語「オバマジョリティー」を掲げ、オバマ米大統領の訪問を呼び掛けました。
 2009年のオバマ氏のプラハ演説には大事な言葉が三つあった。まず「核兵器を使った唯一の国」と「道義的責任」だ。米国社会で「けしからん。原爆投下を謝罪した」と言われるリスクを冒してまで、これらの言葉を使った。「核兵器なき世界」へのリーダーシップを評価するに値する内容だった。

  ―もう一つは。
 「(核兵器なき世界の達成は)自分が生きている間ではないかもしれない」のくだりだ。オバマ氏は廃絶に本気ではないと受け止めた人もいた。しかし、それまで廃絶は「永遠に先」「実現可能性がない」との枠組みで議論されてきただけに、有限の時間枠を設け、夢から目標へと転換する布石になった。

 実際、翌10年に広島市を訪れた国連の潘基文(バンキムン)事務総長は、それを分かった上で「私が生きているうちに実現できると思う」と語った。そういう意味で重要な言葉だった。

  ―今回の訪問の意義は。
 私が知る米国人で、広島に来て感動しなかった人はいない。人生が変わったという人も大勢いる。オバマ氏も被爆者に会えば文句なしにそういう体験になる。核兵器なき世界を目指す気持ちがさらに深まると期待できる。

 広島をヒロシマたらしめるのは被爆者。「会えば謝罪と取られる」というのなら、様子を生中継し、謝罪を求めたり、謝罪をしたりしない、人間的で深いやりとりをそのまま見せれば良い。米兵や自衛官に会うのに、被爆者とは時間がないから会わないというのは理由にならない。

  ―来年1月に大統領を退任するオバマ氏に何を期待しますか。
 被爆者に対する責任として、もう一歩進めてほしい。米国としてできるのは核兵器の即応体制の解除だ。もう一つは核拡散防止条約(NPT)の6条で核兵器保有国に求める核軍縮の「誠実な交渉義務」を守ること。他の保有国に呼び掛け、どうすればいいか考える場を設けてはどうか。

  ―市長時代から訪問に謝罪を求めなかった理由は。
 一つに、謝罪は「許す」という行為につながることがあるからだ。被爆者が「許す」と言えるだろうか。それを問うこと自体、残酷だ。「こんな思いを他の誰にもさせてはならない」という被爆者の思いが現実になった時、被爆者は「気が済んだ」と言えるかもしれない。また今回は、大統領の被爆地訪問の始まりだ。今後、何人も来るうちに米国内の歴史観が変わり、謝罪する時もやがて訪れる。(岡田浩平)

あきば・ただとし
 1942年東京都生まれ。米マサチューセッツ工科大大学院博士課程修了。米タフツ大准教授や広島修道大教授を経て、90年に衆院初当選。99年、広島市長に転じ3期12年務めた。ことし1月から広島県原水禁代表委員。

(2016年5月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ