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社説・コラム

社説 台湾の蔡政権発足 中国は圧力より対話を

 台湾の蔡英文氏が新たな総統に就任した。中国からの独立志向が強い民主進歩党(民進党)が8年ぶりに政権を担うことになる。

 注目は、今後の中台関係であろう。台湾が中国とどう向き合うかは、日本のみならず東南アジアの経済と安全保障に大きな影響を及ぼすことになる。

 20日の就任演説で蔡総統は「中台の政権政党は歴史の重荷を下ろして対話し、双方の住民に幸福をもたらすべきだ」と強調した。中国側が求めていた「一つの中国」の原則について言及は避ける一方で、過去に「若干の共通の認知と了解があった」と述べた。

 中国は、1992年に中台対話が進展した際に、中台は一体という「一つの中国」原則を確認したと主張し、「92年合意という歴史的事実を認めよ」と迫っていた。これに対し蔡総統は92年合意を受け入れない姿勢を示しながら、会談の事実を認めることで、中国側に一定の配慮をみせたといえよう。

 さらに蔡総統は「現行の憲法体制を重視」しながら対中交流を進めるとした。台湾の憲法は、自由地区(台湾)と大陸地区が共に「中華民国」に属すると定めている。中国への歩み寄りを示し対話につなげようとシグナルを発したといえまいか。

 背景に、台湾の民意があるのは間違いない。前の国民党馬英九政権は中台経済の一体化を推進した。その結果「中台統一を狙う中国にのみ込まれる」との危機感が広がり、今回の政権交代につながったといえる。

 その一方で、経済面で中国依存が強まっていることも事実だ。このため、独立か統一かはひとまず横に置き、台湾の主体性を重視しながら中国との交流を進める「現状維持」を望む声が広がっている。蔡総統の発言はそうした民意のバランスをくんだものに違いないだろう。

 中国の対応はどうであろう。中国国務院は蔡総統の演説について「不完全な答案だ」と酷評した。さらに「台湾独立の動きとたくらみを断固として食い止める」と民進党政権をあらためて強くけん制した。

 さらに最近、台湾への高圧的な態度が目立つ。4月の経済協力開発機構(OECD)の会合は、中国の圧力で台湾の代表団が締め出された。台湾への観光客も数を絞っているとされる。蔡総統の就任前には、台湾の対岸にある福建省アモイ駐留の軍が上陸演習を行うなど、挑発行為をエスカレートさせている。

 強力な軍事力を背景に圧力を強めて、統一を図ろうとする態度は決して容認できない。そうした対応では台湾の住民の賛同を得られはしないだろう。圧力ではなく、対話や経済交流こそが求められているということを中国側は受け止めるべきだ。

 日台関係もさらなる深化が問われよう。蔡総統は「日本など友好的な民主主義国家との関係を深めたい」と述べている。日本と台湾は、経済や文化などで緊密な結び付きがある。さらに東日本大震災の際は、台湾から多額の義援金が届くなど、親日的な空気があろう。

 互いの協力の幅を見つめ直しアジアのさらなる安定化へつなげたい。南シナ海などで海洋進出を強めている中国に対しても、連携して改善を働きかけてもらいたい。

(2016年5月23日朝刊掲載)

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