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月末で原医研退任 星教授に聞く 

黒い雨 影響調査に心残り

 黒い雨の影響調査をはじめ、世界各地の放射能汚染地で被曝(ひばく)線量の調査・研究を続けてきた広島大原爆放射線医科学研究所(広島市南区)の星正治教授が3月末で退任する。30年にわたる研究生活の成果や、福島第1原発事故から学ぶべき教訓を聞いた。(衣川圭)

 ―研究生活の思い出は。
 広島大の助手になって原爆と本気で向き合った。ヒロシマの研究者の使命と思い、被爆者が浴びた放射線量を推定する計算式「DS02」の確立のため徹底的に研究した。旧ソ連のセミパラチンスク核実験場(カザフスタン)でもれんがなどから被曝の痕跡を探り、線量を推定できた。

 心残りは黒い雨。従来の降雨地域外でも、かすかな痕跡を確認したと思ったこともあった。だが、冷戦時代の核実験で世界に飛び散った降下物の影響があまりに大きいため、はっきりと証明できていない。それでも、多くの研究者や被爆者の協力があったから諦めずに取り組めた。

 ―研究は福島第1原発の事故でも生きましたか。
 昨年3月から、研究者仲間と福島県内で土などの放射線量を調査した。僕の仕事はサンプルを取って、きっちり数値を残すこと。黒い雨の調査などの経験からその重要さを学んだ。原発事故で、国は情報を小出しにして信頼を落とした。市民に迅速に正しい情報を伝えることが大切だ。

 ―若い研究者には何を期待しますか。
 まず学問的な中立を貫いてほしい。自らの研究に信念を持つとともに、少数意見にも耳を傾ける姿勢が必要だ。黒い雨などの研究はまだ道半ば。広島で放射線物理学を志す人も出てほしい。今後は、広島市を拠点に福島の調査を続ける。カザフスタンの大学でも非常勤講師として人材を育てたい。

 ほし・まさはる
 1948年宮崎市生まれ。大阪大大学院理学研究科修士課程を修了後、広島大大学院に進学。同大の助手、助教授を経て、94年から原爆放射能医学研究所(現原爆放射線医科学研究所)教授。2012年3月に退任。専門は放射線生物・物理学。

(2012年3月29日朝刊掲載)

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