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社説・コラム

『記者縦横』 広島復興を支えた菓子

■ヒロシマ平和メディアセンター・山本祐司

 ジュニアライターが取材・執筆する特集面「ピース・シーズ」は、テーマも自分たちで決める。ある中学3年の女子が会議で提案した。「戦後復興のお菓子について取材したい」。聞けば老舗の鶴亀もなかが好きで、祖母から3世代で楽しむという。そのもなかが被爆後、復興に向かう中で生まれたという説明だった。

 お酒なら興味はあるが、甘い物は食べ慣れていない。前回担当したテーマは「食から見る戦争」。食べ物が続くこともあり、内心「ほかのテーマに…」と考えていたが、あれよあれよという間に、苦手な菓子に決まってしまった。10代の視点は全く予想できない。

 ところが、取材を進めるうち、のめり込んだ。内容は19日の本紙に掲載した通り。紙幅の都合で紹介できなかったクッキー「アオギリ」の記事も、平和メディアセンターのウェブサイトには載せている。

 被爆死した家族や同級生の命も背負い、菓子作りに打ち込んだ職人たち。ヒロシマの菓子には甘さだけではなく、原爆の悲しさに耐え、復興に奔走した市民の思いが詰まっていた。

 後日、取材先を訪ねると紹介した菓子を食べ歩く人がいると聞いた。ならば、これらの菓子をセット販売できないか―。エピソードも添え名付けて「ヒロシマの虹の架け菓子」。国境を越え、口にした老若男女に平和の笑顔が咲くはずだ。President Obama,how about a taste?(大統領、ひと口いかがですか)

(2016年5月27日朝刊掲載)

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