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被爆捕虜を研究 広島の森さん 米兵も犠牲 思い一つ 悲劇の実態 世界へ

 オバマ米大統領が広島を訪れるのを前に、捕虜として拘束中に原爆の犠牲になった米兵たちの存在に関心が寄せられている。甚大な被害の中に埋もれがちな事実を長年調べてきた広島市西区の歴史研究家、森重昭さん(79)は「国は違えど大切な人を失った苦しみは同じ。悲劇を繰り返さない誓いが世界に広がってほしい」と静かに願う。(久保友美恵)

 この小さな記念碑で戦争の悲劇が永遠に刻まれますように-。中区基町の宝ビルに銅製の銘板(縦50センチ、横60センチ)がある。英文メッセージと、捕虜になって広島で被爆死した米兵の写真。森さんが1998年、自費で設置した。「この歴史を知らない人はまだ多い。文字が読めるよう、きれいにせんと」。濃くなった銘板の黒ずみを気にし、つぶやいた。

 国民学校3年生の時、原爆に遭った森さん。楽器会社に勤める傍ら、地元の被爆史を探るうちに被爆米兵の存在を知った。90年から本格的に調査。渡米して生存する元捕虜から証言を聞いたり、日米の膨大な資料を集めたりした。

 米軍は83年に「犠牲者は10人」と公表。だが森さんは、宝ビルの場所にかつてあった中国憲兵隊司令部に収容されるなどしていた12人が被爆死したと結論付けた。遺族とも交流し、愛する人の最期が詳しく分からず、戦後も長く苦しんでいた思いにも触れた。

 オバマ氏の広島訪問発表後、ある遺族から「原爆への評価は米国では難しい問題。私が何かを言えば立場が悪くなる」というメールが届いたという。米国社会では、原爆投下を正当化する意見や兵士の死を賛美する風潮も根強い。森さんは、「原爆のせいで死んだ」と言いにくい遺族の複雑な心中を推し量る。

 今、米国をはじめ、国内外の主要メディアから取材が相次ぐ。「惨劇を繰り返さないために戦争の実態を知ることが大切だと考え、研究を続けてきた。オバマ氏の広島訪問により、米国で原爆に関心を持つ人が増えてほしい」

(2016年5月27日朝刊掲載)

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