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核廃絶 具体策欠く 決意に物足りなさ オバマ氏演説 広島訪問

科学 危うさ突く

 オバマ米大統領が27日、平和記念公園(広島市中区)で行った演説は、一瞬で命を絶たれた無数の犠牲者への思いがにじんでいた。個人の感受性は伝わるが、被害者の願いである核兵器廃絶への具体策は皆無。「核兵器なき世界」への意思を唱えた7年前のプラハ演説からの前進は見えない。歴史的な訪問を果たした核超大国の指導者の決意としては、あまりに物足りなかった。(金崎由美)

 なぜ広島に来たのか―。朝鮮半島出身者や米兵捕虜を含む「(原爆の)死者を追悼するため」と述べた。「子どもたちの朝一番の笑顔…。71年前にも、そんな貴重な時があった」。原爆投下前は広島にもあった普通の暮らしにも言及。それは、オバマ氏に被爆地訪問を求めてきた市民の思いと重なる。原爆がもたらす人間的悲惨さを知ることが、核保有国が廃絶へ行動する一歩になるからだ。

 「核兵器なき世界」を唱える一方、他国が核兵器を持つ限りは信頼性ある核抑止力を同盟国のためにも保持するとしたプラハの言葉は、聞かれなかった。

 核被害の当事者を前に「核兵器で日本を守る」とはさすがに言えまい。核兵器の恐怖と戦争を避ける方策として、日米同盟関係の強化を強調することなく、「われわれは人類という一つの家族の仲間であるという根源的な考え」などとしたのも印象的だった。

 「哲学」が表れたのは、原爆投下の前提でもある戦争が繰り返されてきた人類史に根本的な問いを発した場面ではないか。「科学の発見は、より効率的な殺人機械にも変わりうる」。原爆開発につながった、倫理なき科学技術の追求の危うさを突いた。

 ならば、その米国が科学技術を駆使して核戦力の維持、温存へまい進しているという実態に厳しい目を向けるべきだ。実際は、臨界前核実験や、核兵器の性能実験を繰り返している。

 国防総省の最新の公開データによると、オバマ政権発足から昨年までに削減した保有核弾頭は702。前任のブッシュ政権は8年で5千発以上だった。歴代大統領で最も核削減が見られないのが現実でもある。

 核兵器廃絶に向けた最近の国際世論に依然として背を向けていることも痛感させられた。米国は、核兵器禁止条約について議論するため今月開かれた国連作業部会に参加を拒否。非核保有国などからの厳しい批判にさらされている。演説での言及は一切なかった。

 今回の訪問は、「核兵器なき世界」を志した自身の原点に立ち返る旅でもあったのかもしれない。だが、既に核削減を進めるべき当事者の職に7年間もいる。行動につながらないなら、歴史的な広島訪問は色あせる。

(2016年5月28日朝刊掲載)

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