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社説・コラム

社説 伊勢志摩サミット宣言 同床異夢の感 否めない

 先進国で危機感を共有したことに意味はあろう。しかし、経済分野をはじめ実効性は見通せない。「同床異夢」の感は否めないままだ。

 主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)は、テロ・難民対策や中国を念頭に置いた海洋安全保障、世界経済のリスクなどに結束して対応する先進7カ国(G7)首脳宣言を採択した。

 グローバル化によって、一国だけでは対応できない課題が浮き彫りになり、国際的な連携の必要性が一層高まっている。ロシアと中国が加わらないG7は影響力の低下が指摘される。だが、新興国を加えた20カ国・地域(G20)も明確な方向性を示せない。国際秩序の不安定化が深まっているのが現状だ。

 だからこそ自由や民主主義、法の支配などの価値観を共有するG7に世界を先導する役割が改めて求められていよう。

 だが、討議では個々の課題で見解の違い、温度差も明らかになった。各国は緊密な連携を保つとともに、今こそリーダーが指導力を発揮すべきだ。

 首脳宣言は冒頭、「拡大した紛争、テロや難民の流れが世界の経済環境を複雑にし、国際秩序と全人類に共通する価値に深刻な危機をもたらしている」と指摘した。欧州への難民の流入は排外主義の台頭を招いているし、米大統領選でも内向きの主張が有権者に受けている。

 「パナマ文書」が明らかにした富裕層による国境を越えた租税回避は格差拡大の実態を見せつけた。先進国で中間層が弱体化すれば民主主義の基盤も揺らぐ。もはや放置できない。

 宣言はテロ対策に関し、資金や人の移動に関する情報の共有化とともに、「暴力と憎悪の連鎖」を断つため、地域の多様性を尊重し対話を促進するとした。言葉は素晴らしいが、現実は軍事的な対応が先行している。いかに対話の枠組みを構築できるのかが問われよう。

 租税回避の問題では、タックスヘイブン(租税回避地)に設立された会社の所有者に関する情報の透明化を盛り込んだ。G7だけで対処するのは不可能であり、G20を含めた各国の幅広い連携が求められている。

 一方、調整が難航したのは経済分野だった。「リーマン・ショック級の危機に陥るリスク」を主張した安倍晋三首相に対し、「危機とはいえない」などと異論が出たのだ。景気認識が一致しないだけではなく、政策協調を巡っても食い違う。

 安倍首相は財政出動の必要性を説いて回った。一方、財政規律を重視するドイツのメルケル首相は慎重な姿勢を崩さず、逆に日本が後れを取っている構造改革の重要性を指摘した。このため金融、財政、構造改革の「全ての政策手段を用いる」と、各国が独自の対策に取り組めるような表現で宣言を丸めた。

 しかし、足並みの乱れが露呈したのは、消費税再増税先送りを念頭に「危機」を強調しようとした安倍首相の思惑に一因がある。国内外で「政治利用」との批判が強まれば、G7サミット自体の立ち位置に疑念を与える事態に発展しかねない。

 安倍首相はオバマ大統領の広島訪問で米国との関係強化を演出したつもりだろう。議長国日本としてはG7をいかに結束させるか、そこにもっと心を砕くべきではなかったか。

(2016年5月29日朝刊掲載)

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