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連載・特集

5・27ヒロシマの先に <上> オバマ氏の足跡

世界の関心 被爆地に 被害直視の時間短く

 被爆地広島は28日、「歴史的瞬間」の余韻に浸った。オバマ米大統領の訪問から一夜明けた広島市中区の平和記念公園。原爆慰霊碑の前には、祈りをささげようとする来訪者の列が延びた。オバマ氏が献じた花輪を探す市民、取材を続ける報道陣もいた。

 「テレビにくぎ付けだった」。妻と訪れた佐伯区の高田寿さん(69)は振り返った。一昨年に父を、昨年に母を亡くした。両親ともに被爆者。「大統領が碑前で黙とうし、『良かった』と思えた。ただ演説で被爆者と戦争犠牲者を同等に語られたのは残念で…」。複雑な思いも口にした。

 被爆資料を見て、被爆証言を聞いて、きのこ雲の下だけにとどまらない原爆被害への理解を深めてほしい―。広島から各国首脳へ、訪問を呼び掛ける理由だ。

資料館は10分

 オバマ氏は52分間、公園に滞在。うち原爆資料館にいたのは10分にとどまる。館内の様子は非公開。入り口があるガラス張りの東館1階は、スクリーンや訪問直前に張った白いシートで外からの視線を遮った。

 オバマ氏は1階に特設された複数の展示品を見たが、佐々木禎子さんの折り鶴のほかは「詳細を言わないよう日米両政府に指示された」(同館)。オバマ氏は、数分かけて芳名録に筆を走らせたという。

 その後の「ヒロシマ演説」は17分に及び、予想された数分間を上回った。「ここに立つと爆弾が落ちた瞬間を自ら想起する。子どもたちの恐怖を感じる」…。悲惨な被害を共有する姿勢は示したが、米国が原爆を落としたという事実には触れなかった。行事に招いた日本被団協の坪井直代表委員(91)=西区=たち被爆者と対面はしたが、あの日の証言は聞かなかった。

 米国社会に原爆投下を正当化する声は根強い。オバマ氏は、任期最終年で実現させた広島訪問を「謝罪外交」と取られないよう、細心の注意を払ったように見える。

 「『huge disappointment』(大いなる失望)。演説は詩的で美しいけど、核軍縮をどう進めるのか言っていない」。広島で被爆後、移住先のカナダを中心に欧米で証言活動を続けるサーロー節子さん(84)は28日朝、トロントの自宅で嘆いた。2009年のプラハ演説から、一歩でも進んだ内容を期待していたからだ。

 ただ、「世界が核問題を考えるきっかけにはなった」。現地で終日、米国やカナダの報道機関7社の取材に追われたという。

16ヵ国が取材

 外務省によると、広島訪問を取材した海外メディアは、米国中心に16カ国計約180人。「驚くほどパワフルな演説」(米オンラインメディア、ポリティコのエドワード・イザック・ドベア記者)、「奥深く未来志向。共感を覚えた」(英放送局ITVのジョン・アルバイン特派員)…。中国新聞の取材に応じた記者は総じて、オバマ氏の発信を好意的に受け止めた。

 オバマ氏は被爆者との対面後、同行した安倍晋三首相に「広島に来ることができて本当に良かった。今日はあくまでスタートだ」と語り掛けたという。核超大国のリーダーながら「核兵器なき世界」を掲げるオバマ氏。被爆地訪問に次ぐ一手は、まだ指し示されていない。(田中美千子、桑島美帆、小林可奈)

    ◇

 米国による原爆投下から71年の夏を前に、広島に立ったオバマ氏。現職米大統領として初の被爆地訪問で何をなしたのか。被爆地に、国際社会に変化は生まれるのか。「5・27」の先を探る。

(2016年5月29日朝刊掲載)

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