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社説・コラム

社説 米軍機と広島 言うべきことは言おう

 これも日米同盟の現実なのだろう。広島県の集計によると、2015年度に県内の市町に寄せられた米軍機とみられる飛行の目撃情報が、前年度より1割多い1226件に及んだ。

 増加は4年ぶりだ。西中国山地の訓練空域「エリア567」と重なる北広島町が6割近くを占めたのをはじめ、高止まりしたまま固定化の様相を示す。休日や夜間・早朝の目撃件数も少しは減ったものの依然として続く。その中で広島市内では88件と10倍に急増し、上半期は市街地の上空で機影が目立った。

 これらが何を意味するのか。米海兵隊岩国基地を離着陸して訓練するルートの多様化などが容易に想像できよう。かつてなら被爆地の上はできるだけ飛ばない空気が米軍側にもあった印象を受けたが、最近は平気で姿を見せるようだ。

 県が20年近く続ける集計は目撃情報が頼りであり、米軍機の動向を正確に把握したとは言い切れない部分がある。内容もばらつきがあり、住民に切迫した危険をもたらす狭い意味での低空飛行ばかりでもない。

 とはいえ日米地位協定を盾に自由に飛び回る米軍機の情報は事前も事後も、地域には一切示されない。だからこそ日米両政府に突き付けられる貴重なデータにほかならない。

 オバマ大統領の広島訪問の余韻が残る中、県は近く両政府にあらためて危険な低空飛行訓練を中止するよう要請する。住民の暮らしを守る自治体の責務としてこれまで通り、言うべきことを言うのは当然だ。歴史的な被爆地訪問で日米友好のムードが盛り上がっているとしても、それとこれとは話が別である。何ら遠慮する必要はない。

 平和記念公園におけるオバマ氏と安倍晋三首相との行動には日米同盟の強化をアピールする意図もあったのは間違いない。その側面は、むしろ大統領が立ち寄った岩国基地での激励スピーチの方に色濃かった。自らの広島訪問で日米が「最強の同盟国になれる」と述べ、その象徴がイワクニだと位置付けた。

 その岩国基地の状況をどこまで自覚していたか。滑走路沖合移設で騒音が一定に軽減されたものの、裁判所から日本政府に賠償命令が出るほどの「違法状態」になお置かれていること。そして飛行訓練が隣の広島県や島根県側にも騒音や事故の懸念を与えていることである。

 昨年度、広島県側でも目撃された海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの動きも気になる。1年前のハワイでの着陸失敗で改修を迫られるなど安全性に不安が拭えない。そうした中でオバマ氏の移動に合わせ、オスプレイは岩国から広島市内へ降りた。大統領が来るのだから仕方ないという受け止めは市民にあろうが、今後とも被爆地に自由に飛来していいのか。

 沖縄と同様、米軍基地が地域にもたらす影響を日米とも直視すべきだ。岩国には来年にも神奈川県の厚木基地から空母艦載機部隊の移転が予定される。その際、基地周辺はもちろん遠く離れた訓練ルートの飛び方や騒音がどうなるかは見通せない。

 広島県はどう向き合うのか。島根県側とも連携し、廿日市市内などに既にある騒音測定器の広範囲の設置も含めて監視態勢を強め、しっかり物申していく姿勢は貫いてもらいたい。

(2016年5月30日朝刊掲載)

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