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連載・特集

5・27ヒロシマの先に <下> 被爆地の変化は

核廃絶へ新たな起点 「訪問生かす行動を」

 5月27日―。ちょうど60年前、国による被爆者救済と原水爆禁止を求めて広島県被団協が結成された日。そして、ことし原爆を投下した米国のオバマ大統領の訪問を受けた。広島の被爆者にとっての節目の日に、重みが一つ加わった。

 広島市中区で29日にあった県被団協の総会と60周年記念行事。平和記念公園(中区)でオバマ氏と対面した坪井直理事長(91)は総会で、興奮冷めやらぬ様子でその時を振り返った。「『核兵器廃絶に向け一緒に頑張りましょう』と話した。私たちも諦めず頑張ろう。ネバー・ギブアップ」

 オバマ氏は「ヒロシマ演説」の際、被爆の記憶の継承と、未来志向のくだりで「ヒバクシャ」と2回言った。被爆者の平均年齢は80歳を超え、県内地方組織の解散も相次ぐ。出席者からは運動の弾みになると期待する声が上がった。

書簡 回答なし

 とはいえ、被爆者とオバマ氏の今後の「連帯」は見通せない。日本被団協が提唱し、県被団協も本年度の運動の中心に掲げた国際署名は、各国に「被爆者が生きている間の廃絶」を求める。しかし、54歳のオバマ氏は「私が生きているうちに達成できないかもしれない」。7年前のプラハ演説同様のフレーズを広島でも繰り返した。

 日本被団協が訪問前にホワイトハウスへ書簡で要望した核兵器禁止の主導や、核軍縮の進展を目指す国連作業部会への出席も「ゼロ回答」だ。この日の総会で日本被団協の藤森俊希事務局次長(72)は「核兵器のない世界へ、弱気に見えた」と冷静に指摘した。

 来年1月に大統領職を退くオバマ氏に頼らず、どうやって悲願の廃絶をたぐり寄せるか。原水爆禁止運動を率いた県被団協初代理事長、故森滝市郎氏の次女春子さん(77)=「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」共同代表=は、記念行事の講演で父の絶筆を引いて訴えた。「人民大衆の連帯にかかっています」

次代の担い手

 ヒロシマの次代の担い手はやる気を膨らませていた。総会に出席した県被団協2世部会の遊川和良会長(69)は「被爆者を支え、その記憶を伝える2世の役目を一層果たしたい」。坪井さんとオバマ氏の対面を見守った盈進高2年の作原愛理さん(17)は「一日も早い廃絶を、という坪井さんの願いがオバマさんにもっと届くよう、核兵器廃絶を求める署名活動に励みたい」と期す。

 「オバマ氏は訪問を『スタート』と言った。ヒロシマから『核兵器なき世界』を目指す新たな市民運動のうねりが起きてこそ、本当の意味で歴史を変えられる」と、平和首長会議(会長・松井一実市長)の小溝泰義事務総長。核兵器保有国や「核の傘」の下にある国々に安全保障政策の転換を強く呼び掛ける考えだ。

 「私の国のような保有国は、核兵器のない世界を追求する勇気を持たなければならない」と被爆地で語ったオバマ氏。その訪問、その演説が歴史的意味を増すかどうか―。「5・27」以降のヒロシマの取り組みも問われることになる。(水川恭輔)

(2016年5月30日朝刊掲載)

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