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連載・特集

緑地帯 運動の水脈をたずねて 丸浜江里子 <2>

 「安井先生のお宅の資料整理が始まるそうですよ」。2005年1月、東京・杉並の市民運動の大先輩から聞いたひと言が、研究のきっかけだった。

 「安井先生」とは杉並の原水爆禁止署名運動を立ち上げ、原水爆禁止日本協議会(日本原水協)の初代理事長となった国際法学者、安井郁(1907~80年)である。資料整理に加わり、丁寧に保存された資料をひもとくうち、がぜん興味が湧いた。

 その5年前、都内の公立中学校を退職した私は、杉並の教科書採択を巡る市民運動に参加した。「新しい歴史教科書をつくる会」が編集した教科書を支持する当時の区長が、区立中学校でその教科書を採用しようと、教育委員の入れ替えを企図したことへの反対運動であった。

 01年の教科書採択では区長の思惑の前に立ちはだかることができたが、再び教育委員が代えられ、採択の表決は逆転、05年に同会の教科書が採用された。

 それでもその4年間に、職業や経験の異なるさまざまな人々と運動をつくっていく面白さと可能性、同時に大変さを知った。ふと、立ち止まった時に「安井資料」に出合ったのだった。

 半世紀の時を超えて大切に守られてきた記録には、市民運動の知恵や喜び、苦労、工夫が書かれていた。地元の杉並発祥の運動だけに、知っている人、聞いたことのある話も出てくるではないか。運動の水脈は途切れずにつながっていたのだ。当時を知る方を訪ねると、待っていたかのように話をしてくれた。(都留文科大非常勤講師=東京都)

(2016年6月1日朝刊掲載)

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