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社説・コラム

『記者縦横』 生の感情 核廃絶の糧に

■報道部・水川恭輔

 オバマ米大統領は、人形を手に笑顔を向け合うきょうだいの写真を見ただろうか。2人の「遺影」は、原爆資料館(広島市中区)で開催中の新着資料展のポスターに使われた。オバマ氏が訪れた時も館内に貼られていたという。

 オバマ氏は演説で子どもの犠牲にも触れた。1945年8月6日の記憶を「道義的な想像力の糧となり、われわれに変化(change)をもたらす」と語った。一方で、核兵器廃絶に向けた具体的な政策の「change」は皆無だ。

 オバマ氏は広島訪問を「スタート」と語ったという。しかし、核兵器保有国全てが原爆被害の人間的悲惨さを直視しなければ廃絶へのスタートは切れまい。

 被爆地はどうだろう。被爆から70年が過ぎ、記憶の継承は岐路に立つ。広島県被団協初代理事長の次女森滝春子さん(77)は問い掛ける。「悲惨さに込み上げた怒りを忘れてはいないか。訴えの原動力のはずなのに」。オバマ氏を迎えた広島の「空気」に対し、生々しい憤怒や悲しみをつづった被爆直後の手記にいま一度向き合う必要性を指摘する。

 オバマ氏が目にしたかもしれないポスターの2人を含むきょうだい4人と父親は原爆死。重傷の母親はそれを苦に井戸に身を投げ、一家は「全滅」した。資料館東館には一家の写真15枚が並ぶ。多くの人に、その前に立ってほしい。あの日までの幸せな日々を想像してほしい。込み上げる感情は、「5・27」の先の、私たちの行動の糧になる。

(2016年6月3日朝刊掲載)

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