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若き位里作 幻の絵馬 広島県安芸太田の神社に2点 初期画業伝える人物画

 妻と合作した「原爆の図」で知られる広島市出身の画家、丸木位里さん(1901~95年)が20歳代に描いた絵馬2点が、広島県安芸太田町の松原大歳神社で保存されていたことが分かった。研究者は「初期の知られていなかった作品。画業をたどる上でも大変貴重」と評価している。(西村文)

 絵馬はいずれも縦76・5センチ、横153センチ。絵の右端に「丸木位里謹写」、額縁に「昭和四年」と書かれ、いずれも古典の有名な場面を描いている。1点は記紀の世界を題材に、日本武尊が剣で草をなぎ払って、野火から逃れる様子を力強く描写。もう1点は中世の軍記物語「太平記」をもとに武将の楠木正成・正行父子の決別シーンを描いている。

 4月18日、奥田元宋・小由女美術館(三次市)の永井明生学芸員と、原爆の図丸木美術館(埼玉県東松山市)の岡村幸宣学芸員が同神社を訪れて調査し、位里さんの作と確認した。

 位里さんは現在の広島市安佐北区安佐町飯室の出身。東京で日本画の修業をした後、23年の関東大震災を機に帰郷。絵馬は29年、友人が副住職を務めていた安芸太田町の光明寺滞在中に制作したとみられる。当時は左翼思想の影響を受け、詩や短編を芸備日日新聞(後に中国新聞と合併)に投稿していたが、画家としての活動については不明な点が多かった。

 岡村学芸員は「当時の思想信条とは別に、親しい人からの依頼に応じたのだろう」と推測。後に再び上京し、水墨画家として活動を始めてからは人物を描いておらず、「初期の人物画は興味深い」と絵馬に見入っていた。

 調査に立ち会った同町郷土史研究会会長斎藤泰行さん(82)は「地元でも絵馬の存在を知っている人は少ない。郷土の宝として大事に守っていきたい」と話していた。

(2016年6月7日朝刊掲載)

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