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社説・コラム

社説 尖閣と中国軍艦 不測の事態をどう防ぐ

 中国海軍のフリゲート艦が沖縄県・尖閣諸島の接続水域へ。それを聞いて、雑誌連載中の漫画を思い浮かべた。

 尾道市出身のかわぐちかいじさんの「空母いぶき」である。日本がついに空母を保有した近未来が舞台。尖閣・先島諸島に侵攻した中国軍と、自衛隊が武力衝突に至る緊迫した場面が今まさに描かれつつある。

 目の前の現実も確かに緊張感を高める事態だ。国際法で通行が許される接続水域とはいえ、中国海警局と海上保安庁の船がにらみ合う海域に初めて軍艦を出動させた中国の振る舞いは、明らかに一線を越えた挑発行為といえる。日本政府が強い姿勢で臨むのは当然のことだ。

 尖閣領有権を一方的に主張する中国政府は日本からの抗議を突っぱねて「他国にとやかく言う権利はない」と開き直った。理解し難い態度である。

 このまま行動をエスカレートさせ、今度は日本領海に軍艦が侵入すれば何が起きるか。海上保安庁の能力を超えるとして日本が自衛隊法に基づく海上警備行動を発令し、自衛隊を出動させることもあり得よう。軍事力で対峙(たいじ)し、偶発的な衝突に発展する可能性も否定できない。

 参院選が迫る。中国の脅威をことさら強調する声が政界では強まるかもしれない。しかし、冷静さを失ってはなるまい。

 日中が尖閣問題の話し合い解決を図った2014年の4項目の合意は生きている。不測の事態に陥らないよう、外交努力で対応できる段階のはずだ。

 中国側に軍事的威嚇をやめるよう強く自制を促すとともに、偶発的衝突を回避するための防衛当局間の「海上連絡メカニズム」を早期に運用できるよう、協議を急ぐ必要がある。

 同時に、この事態が意味するものを十分に分析すべきだ。中国海軍の真意を読み切れない部分があるからである。

 むろん中国の動きだけ考えれば分かりやすい。実効支配を図る南シナ海の島々の領有権問題との関連である。

 米国が「航行の自由」作戦で艦船を派遣し、中国戦闘機が米軍機に異常接近するトラブルも起きている。さらに主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)やシンガポールでのアジア安全保障会議、米中戦略・経済対話と、中国の海洋進出が国際社会の批判を浴びる局面が続く。その中で尖閣周辺の行動で「包囲網」をけん制する狙いがある、との見方には確かにうなずける。

 一方で気掛かりなのは今回、同じく尖閣諸島の接続水域に入ったロシア軍の動きである。中国のフリゲート艦にしてもロシアの駆逐艦など3隻の後を追う格好となった。なぜなのか。

 最近、中国とロシアは軍事的に接近している。両国が連携して日本や米国を挑発した可能性も指摘される。だとすれば日本外交にとって、より難しい問題となってくる。

 日本政府はロシア側の動きは尖閣問題とは関係ないと早々に判断し、中国と区別して「注意喚起」にとどめた。先月の日ロ首脳会談では日本の経済協力とともに北方領土を含む平和条約交渉を前に進めることで基本的に合意したばかりで、友好ムードもある。だからといって遠慮することはない。場合によってはロシアに対しても毅然(きぜん)とした対応を取るべきではないか。

(2016年6月11日朝刊掲載)

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