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社説・コラム

中国新聞 政経講演会 参院選とこれからの安倍政権 政治アナリスト・伊藤惇夫氏

改憲勢力の議席数注目

 中国新聞社と中国経済クラブ(山本治朗理事長)は10日、広島市中区の中国新聞ビルで中国新聞政経講演会を開いた。政治アナリストの伊藤惇夫氏が「参院選とこれからの安倍政権」と題して講演。22日公示、7月10日投開票の参院選は憲法改正を目指す与党などの改憲勢力が、発議に必要な3分の2議席を確保できるかが最大の注目点と指摘した。要旨は次の通り。(鴻池尚)

 首相になった人が必ずとらわれる三つの欲望があるといわれる。①長く首相の座にいたい②解散総選挙をして勝ちたい③歴史に名を残したい―の3点だ。安倍首相は、通算で在職1600日を超え、戦後歴代5番目の長さとなっている。解散に踏み切った一昨年末の衆院選で勝利した。後は、歴史に名を残すことで、それが憲法改正になる。

 政権が憲法改正を訴えるのであれば、描いている改正の全体像を示してから国民投票をすることが正しい姿だ。自民党が進めようとしているのは、手始めに合意を得やすいテーマだけを取り上げて改正する「お試し改憲」だ。国民を慣れさせてから、本丸の9条改正に踏み切ろうとしており、姑息(こそく)だ。

 第2次安倍政権がスタートして3年半が過ぎた。極めて安定している。強みは3点ある。一つ目は野党が非力すぎることだ。旧民主党政権の失敗が影響しており、国民には期待を大きく裏切られたというトラウマがまだある。

 二つ目は、広告宣伝能力の高さだ。「地方創生」「女性活躍」「1億総活躍」などのキャッチフレーズを次々と打ち出し、内閣改造もした。期待感をつくり出し、維持させるのがうまい。象徴が「アベノミクス」だ。ただ、アベノミクスについて効果を多くの人が実感できておらず、期待感がいつまで続くかが政権の生命線になる。

 三つ目が人事の成功だ。これまでは主要人事がしっかり機能してきた。安倍首相は「お友達人事」で失敗した第1次政権の反省を生かして慎重に進めてきた。だが、政権内に緩みも出てきている。失言や暴言が目立ち、首相を支えていた甘利氏の大臣辞任もあった。今後、バランスを崩す可能性もある。

 この参院選の最大の注目点は、与党をはじめとした改憲勢力が3分の2以上を確保できるかだ。今年初めごろは可能性もあるとみられていたが、状況が変わっている。政権の緩みもあるが、野党が32の1人区全てに統一候補を立てたことが要因だ。投票率を左右する無党派層の動向が結果に大きく影響するだろう。

 3分の2を確保できない場合、政権は目標を喪失する。参院選の次の改選は3年後で、それまでに安倍首相の任期は終わる。「何とか3分の2を取る」と強い思いを持っているだろう。

 今の「1強多弱」の政治構造はデメリットが大きい。政治から緊張感が薄れてしまうからだ。よりよい政治構造になるには、政権に警戒心を持たれる野党が存在しないといけない。

いとう・あつお
 48年神奈川県生まれ。学習院大法学部卒業後、約20年間、自民党本部で勤務した。その後、旧太陽党や旧民主党の事務局長を務めた。01年に旧民主党の事務局長を退任して以降は、政治アナリストとしてテレビやラジオなどでコメンテーターをしている。

(2016年6月11日朝刊掲載)

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