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佐々木禎子さんの原爆被害を発信 ユンク氏の写真 予備校など「過去問」掲載へ 広島の資料館に提供依頼相次ぐ

 あの写真を大学入試の過去問題集で使いたいのですが―。原爆資料館(広島市中区)が受験予備校から思わぬ依頼を受けている。写っているのは国際ジャーナリストで、佐々木禎子さんの原爆被害を海外に発信したことで知られるロベルト・ユンク氏(1913~94年)。1月の大学入試センター試験「世界史B」の設問に登場し、広島でのカットが使われたためだ。画像データを持つ資料館は「若者がヒロシマを学ぶ一助になれば」と協力している。(水川恭輔)

 写真は60年の撮影。折り鶴の首飾りをしたユンク氏が、子どもたちと広島原爆病院(現中区)の患者を見舞った姿を捉えている。資料館は2013年に研究者グループと企画展を開いた際に展示し、所蔵するオーストリアのユンク図書館からデータ提供を受けた。

 「世界史B」では、戦争を巡る設問の中でユンク氏に触れた。「広島で被爆した少女サダコの物語を世界に伝えることに貢献するなど、反核・反戦運動を通じて近代科学と密接に関わる20世紀の戦争に警鐘を鳴らし続けた」と紹介。その写真が添えられた。ユンク氏の企画展が14年に東京大でも開かれるなど、活動に再び光が当たる中で取り上げられたとみられる。

 大学入試センターによると、試験問題への写真使用は、内容の漏えいを防ぐため著作権者の許可を必要としない。しかし、試験後にその問題を発行物やホームページ(HP)に転載する場合は要るという。

 同センターは2月、資料館に使用許可を求め、ユンク図書館も了承。近くHPの過去問題欄に載せる。さらに予備校2社が「問題集に掲載したい」と、資料館からデータ提供を受けた。

 広島県教委によると、県立高が使っている世界史の教科書にユンク氏に関する記述はない。ただ「センター試験の過去問題は多くの受験生が解く。関心を抱くきっかけになる」(高校教育指導課)とみる。

 先月に広島市を訪れたオバマ米大統領が市へ折り鶴を贈り、「サダコの折り鶴」への注目は高まっている。資料館は常設展示でユンク氏の著作を紹介しており、「折り鶴が世界へ広がっていく過程に、受験生に興味を持ってもらえたら」と期待している。

ロベルト・ユンク氏
 ドイツ出身。広島を1957~80年に5度訪れ、被爆者たちを取材。被爆10年後に12歳で白血病のため亡くなった佐々木禎子さんを取り上げた著書「灰墟(はいきょ)の光」(59年)は10言語以上に翻訳され、「サダコの折り鶴」を世界に広めるきっかけをつくった。

(2016年6月12日朝刊掲載)

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