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「黒い雨」指定地域 見直し論議大詰め

 広島原爆の「黒い雨」で、国が援護する指定地域(第1種健康診断特例区域)の見直し論議が大詰めを迎えた。広島市が、黒い雨を体験した人に「心身」両面で健康影響を認め、地域を約6倍に広げるよう求めたのに対し、厚生労働省の検討会ワーキンググループ(WG)は「心」の面での影響だけを認めた。来月にもまとまる検討会報告を前に見解を整理した。(岡田浩平、田中美千子)

 今の指定地域は「大雨地域」だけで、「小雨地域」は外れている。市調査の「科学的検証」をする検討会とWGの論点は、①指定地域外での黒い雨体験者の健康状態②降雨の範囲―の主に二つだった。

 健康影響に関し、市は住民への大規模アンケートで精神面を中心に体の状態も問い、回答を解析。病歴なども踏まえ、指定地域外の黒い雨体験者は「心身の健康状態は被爆者に匹敵するほど不良」と主張する。

 一方、WGは、精神面を焦点にした市の調査データをあらためて解析。体の病気への影響は「評価が困難」として検証していない。精神面では、指定地域外の体験者が非体験者より悪い点を確認し、「放射線の健康影響への不安や心配」を主な理由としている。

 国は、1980年の原爆被爆者対策基本問題懇談会(基本懇)の報告を基に、地域拡大には「放射線による健康影響が認められる科学的、合理的根拠が必要」とするが、具体的要件は決めていない。長崎被爆では、精神面の影響を認めて、関連する病気の医療費を助成する第2種健康診断特例区域を設けたが、被爆者とは区別する。

 これに関し、市調査の中心となった広島大原爆放射線医科学研究所の神谷研二所長は「原爆放射線による精神面の影響をもっと認めるべきだ。長期的には体にも影響を与えるのは容易に想像がつく」と指摘する。

 また降雨域をめぐり、市側は、体験者がいる地区の分布から小雨地域以上の広さを推定。WGはデータ不足を理由に「降雨域の確定は困難」としたが、指定地域外にも体験者の割合が高い9地区がある点は認めた。これまでの議論で、特に小雨地域外でも雨が降った可能性がある地区の存在を重視すべきだとの意見もあった。

 検討会の佐々木康人座長は「WGの検証結果に沿って報告する」と明言。拡大の是非は、最終的に国が判断することになる。

 3月29日の会議で市は、黒い雨の実態を放射性物質や病気との関連から科学的に検証するのは難しく、住民の証言から明らかにするしかないと強調した。傍聴した広島県「黒い雨」原爆被害者の会連絡協議会の松本正行事務局次長(87)=安芸太田町=は「指定地域外も雨が降った以上、公平な援護を」と強調。国の判断を注視している。

「黒い雨」の国指定地域見直し
 国は、黒い雨の「大雨地域」を第1種健康診断特例区域に指定し、住民たちの健康診断をしている。一定の病気にかかると被爆者健康手帳を交付する。広島市は、広島県や研究者らと研究会を設け、2008年に市や周辺に住む約2万7千人(回答)のアンケートを実施。結果を基に10年に国に地域拡大を要望した。厚生労働省が設けた放射線や精神科の専門家らの検討会は同年12月から今年3月まで7回開いている。

(2012年4月16日朝刊掲載)

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