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戦争に翻弄 少年兵の悲劇 児童文学作家の那須正幹さんが新刊

「実感を持って歴史を学び、未来について考えて」

 絵本「絵で読む 広島の原爆」などヒロシマにちなむ作品を手掛けてきた児童文学作家那須正幹さん(74)=防府市。「戦争を違った角度から書きたい」。そんな思いで取り組んだ児童書「少年たちの戦場」=写真=を刊行した。明治維新期の戊辰戦争や、第2次世界大戦に翻弄(ほんろう)された少年兵を等身大に描き、戦争とは何かを問い掛ける。(石井雄一)

 全4話で構成。第1話「その名は無敵幸之進」は戊辰戦争が舞台だ。下関の商家に生まれた少年がひょんなことから戦に加わり、投石で武将を倒す。そして高杉晋作から「無敵幸之進勝行」という名前を贈られた―。そんな地元の伝説にちなむ。

 主人公の幸助は、長岡藩(現新潟県)での戦で敵の首を絞めて殺す。両手に残る感触、苦悶(くもん)にゆがむ相手の顔。そんな記憶にさいなまれる。那須さんは「敵とはいえ相手は同じ人間。戦争に加わるということは人間を殺すこと」と強調する。

 続く「田上小士郎の戦争」は、同じく戊辰戦争に出陣した二本松藩(現福島県)の二本松少年隊がモチーフだ。主人公の小士郎は藩士の息子。「戦に加わることに何の疑問も抱かない少年兵を書きたかった」と語る。戦争に突き進む周囲の空気にのみ込まれてしまう子どもの姿を浮き彫りにした。

 第3話「コーリャン畑の夕日」は満蒙(まんもう)開拓青少年義勇軍、最終話「仏桑華(ぶつそうげ)咲く島」は沖縄の鉄血勤皇隊と、第2次世界大戦に巻き込まれた少年たちの悲劇を紡ぐ。

 ただ、最終話だけは主人公の命をつないだ。沖縄に取材に行った時、沖縄民謡の明るさに心を動かされた体験がそうさせたという。「その後」を想像させる物語は、多くの米軍基地を抱える沖縄の現状にも結び付く。「70年前にすべてが終わった、過去の出来事ではない」

 戦後71年。「子どもたちは、歴史を学んでもなかなか自分のこととして認識できんからね」。だからこそ、フィクションの出番だと力を込める。仲間との友情や確執の描写に、現代の子どもが共感できる工夫を凝らした。

 資料調べも含め、執筆には3年ほどかかった。この間、集団的自衛権を容認する閣議決定がされ、特定秘密保護法や安全保障関連法も成立した。3歳の時に被爆した那須さんは時代への危機感も背に、「実感を持って歴史を学び、未来について考えてほしい」と願う。

 かつて那須さんが会長を務めた日本児童文学者協会の創立70周年を記念した出版。挿絵は絵本作家・イラストレーターのはたこうしろうさんが手掛けた。新日本出版社刊、1944円。

(2016年6月18日朝刊掲載)

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