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選択2016参院選 憲法 9条・安保…議論望む声 

暮らし直結 存在身近に

 広島市立大広島平和研究所の河上暁弘准教授(憲法)は、学生の変化を感じる。講義の導入段階で憲法や立憲主義の「そもそも論」を解説すると、仕事や生活、戦争の恐怖など、具体的な関心事と結び付けて考えるようになったという。

 昨年9月成立、今年3月施行の安全保障関連法を巡る論議が背景にあると河上准教授はみる。論議の過程で反対の声を上げる若者の動きが各地で起こり、「憲法との距離が近づいた」と説明する。

公約に明記せず

 安保法は歴代政権が禁じた集団的自衛権行使を容認し、限定的ながら海外での自衛隊の武力行使を可能にした。憲法学者の多くが違憲と指摘する。

 これに対し、安倍晋三首相は日米同盟の信頼関係を強調し、「国民の命と平和な暮らしを守り抜くために必要な法制」と繰り返す。今年に入り、憲法の戦力不保持を定めた9条2項改正に言及し、自衛権の明記をあらためて提唱。改憲発議に要る3分の2の議席獲得を目指し、参院選の争点化へアクセルを踏んだとの見方が強まった。3月には参院予算委員会で憲法改正について「在任中に成し遂げたい」と明言した。

 しかし、通常国会が閉幕した今月1日、消費税増税の再延期を表明した会見で、安倍首相は「最大の争点はアベノミクスの加速か後戻りか」と声を張った。自民党の参院選公約も憲法改正を最終段落に記し、「9条」の文字はない。

 広島市中区の事務所。安保法違憲訴訟の準備を進める山田延広弁護士には首相会見が「争点隠し」に映った。脳裏によぎるのは2014年の衆院選。消費税増税の先送りの是非がクローズアップされ自民党は大勝。安保法成立へと進んだ。

 当時の自民党の政策集で安保法制に関する記述は外交安保20項目の1項目。「集団的自衛権」の文言はなかった。「参院選で改憲勢力が3分の2を取れば、信任を得たとしてひた走るだろう」。山田弁護士は心配する。

海自 役割拡大へ

 護衛艦や輸送艦が停泊する、呉市の海上自衛隊呉基地。「安保法が違憲と指摘されると、存在が否定されている気持ちになる」。勤務する40代の隊員は言う。「中国や北朝鮮の動きを見ると、抑止力として法整備は不可欠と思う。参院選で憲法も堂々と議論してほしい」と願う。

 同基地から、テロ対策特別措置法などに基づき、海外に艦船が派遣され、隊員は現地で給油活動などを担ってきた。安保法の実質的な運用が始まれば役割はさらに高まる。

 公布70年目の憲法は一度も変わっていない。参院選では、民進、共産など野党側が安保法廃止を旗印に共闘。全国32の1人区で統一候補を立て、「憲法9条改正の是非が最大の争点」と位置付ける。

 河上准教授は説く。「憲法は国民の暮らしと直結する。憲法を変えるのか。憲法を変えようとする政治を変えるのか。二者択一です」(胡子洋、貞末恭之)

憲法改正手続き
 国会議員によって憲法改正の原案が提案され、衆参両院の憲法審査会で審査する。両院で総議員の3分の2以上が賛成すると、国会が憲法改正を発議し、60~180日の間に国民投票が行われ、有効投票総数の過半数の賛成で承認となる。2014年6月、憲法改正手続きを確定させる改正国民投票法が成立した。

(2016年6月18日朝刊掲載)

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