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社説・コラム

社説 沖縄「県民大会」 怒りは限界 次の一歩を

 きのう、那覇市の奥武山(おうのやま)公園には、炎天下に6万5千人が集まった。一斉に掲げたメッセージボードには「怒りは限界を超えた」とあった。それこそが今の沖縄県民の声なのだろう。

 元米海兵隊員の軍属が逮捕された女性暴行殺害事件に抗議する「県民大会」である。追悼のため、黒いものを身に着けた参加者が多かった。自宅からウオーキングに出掛けた20歳の女性が不意に襲われた事件。もし被害を受けたのが自分や家族だったら―。人ごとではなく受け止め、憤りと深い悲しみを感じていたに違いない。

 積もり積もった悔しさもあるだろう。亡くなった女性が生まれたのは1995年。12歳の女子小学生が米兵に暴行された年である。その事件に端を発し、日米両政府による米軍普天間飛行場(宜野湾市)の返還合意がなされたが、いまだに実現していない。そればかりか米軍関係者による凶悪犯罪は繰り返されてきた。

 その怒りの矛先は基地へと向かう。もう一つのメッセージボードにはこうあった。「海兵隊は撤退を」。この訴えを大会決議に盛り込んだことなどから、自民・公明両党は参加を見送ったとみられる。超党派の大会とならなかったのは残念だが、「反基地」の声がこれまでになく高まっているのは確かだ。

 実際、沖縄県議会も72年の本土復帰以降初めて、「海兵隊撤退要求」を盛り込んだ抗議決議を可決した。県政に中立で基地問題に慎重な立場の公明党も賛成に回った。その後の琉球新報などの世論調査でも、事件事故を防ぐためには「全基地撤去」を望む意見が43%と最多で、「在沖米軍基地の整理縮小」の27%と差が開いた。

 そうした中で、政府と沖縄県民との感覚のずれは広がるばかりではないのか。

 日米地位協定への向き合い方にしてもそうだ。米軍人らの日本側の捜査や裁判権を制限する不平等な協定について、沖縄からは抜本的な改定を求める声が上がる。だが政府は、米国に対し小手先の運用改善を迫るにとどまる。改定に向けた具体的な交渉を提案すべきだ。

 その交渉を避けたまま、米海兵隊の普天間飛行場の移設先として「辺野古が唯一の選択肢」と繰り返しても、沖縄の人々の賛同は得られないだろう。

 本土の私たちも、沖縄に在日米軍専用施設の74・4%がある現実を見つめ直す必要がある。

 とりわけ米海兵隊は、日本が主権を回復した52年以降、本土の反基地感情の高まりを受け、米施政権下の沖縄に次々と移った歴史がある。

 結果的に沖縄に負担を押し付けていることや関心の薄さが許せなかったのだろう。県民大会でスピーチした学生は本土の国民に向けて「第二の加害者は、あなたたちだ」と涙ながらに語った。その言葉は重い。

 そもそも海兵隊が沖縄に駐留する必然性についても、再検討すべきである。日本政府が念頭に置く尖閣諸島の有事の場合でも、一義的な防衛は自衛隊が担わなければならず、米軍の出動は空軍や海軍が先になるという見方もある。

 このまま負担を押し付けていいはずはない。沖縄の怒りの声に向き合い、次の一歩をどう踏み出すかをともに考えたい。

(2016年6月20日朝刊掲載)

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