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発信 お客さんのために 夫婦漫才「おしどり」 福島原発事故語る 

 東京を拠点に全国で活動している夫婦漫才コンビ「おしどり」のマコさんとケンさんが、広島女学院大(広島市東区)で福島第1原発事故をテーマに講演した。5年前の事故発生を機に原発取材に関心を持った2人。芸人らしい軽妙なやりとりも交え、報道では伝えられていない「現実」を紹介した。(山本祐司)

 学生や教職員ら約50人を前に1時間半話した。事故直後の2011年3月、東京で子ども向けに公演した時、劇場担当者から言われた。「原発や爆発という言葉を使ってはいけない」。周囲には関西へ「脱出」する芸能人も。事故の現状をお客さんに伝えないと国のために漫才をしてしまうのでは―。危機感が募った。

 マコさんは、インターネットで東京電力の記者会見を見ながら、漫才の台本を書くように質疑応答を書き起こした。4月半ばまでに書きためたノートは約20冊。そこで気付いた。鋭い質問をする記者は指名されにくい。パソコンを前にいらだちが募り、自ら会見に行こうと決めた。

 会見では、ケンさんが撮影し、マコさんが質問。福島第1原発の中継画像を見ながら、時々立ち上る煙が気になったマコさんは「放射性物質は含まれていますか」と聞いた。「含まれてございます」と予想外の答え。他の記者は質問せず東電からも説明がなかっただけに「会見が全てでない。情報の見方が変わった」。

 追究する中でつらい思いも経験した。素人の自分が質問を始めると新聞やテレビの記者が部屋から出て行った。「何したいの」「後にして」というやじも。自宅で壁に向かって号泣するマコさんを「せめて僕の方を向いて」と慰めるケンさん。スポンサーを気にするマネジャーから「原発を扱う限り仕事は取らない」と言われても、踏ん張った。

 表立たなくても支援する輪に支えられ、仕事が続けられた。作業員の被曝(ひばく)線量、汚染地下水の対策など課題はなお山積み。マコさんは「原発は国策で進められた。情報の少ない人が苦しむ状況を生んではいけない」と自ら発信する姿勢を崩さない。ケンさんは「被爆地にもあった悲しみが繰り返される。多くの人と怒りを共有したい」と話していた。

おしどり
 2005年結成。大阪市出身のケンさんはパントマイムダンサー、神戸市出身のマコさんはアコーディオン奏者だった。福島第1原発事故後は芸人活動の傍ら、記者会見や現地で取材を重ねて、国内外で講演するなど情報を発信している。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。

(2016年6月20日朝刊掲載)

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